日本の音響機器メーカーaudio-technica(オーディオテクニカ)のAT4040は、音にクセがないためライブ配信から音楽制作まで用途を選ばず、1本持っておくとたいへん重宝するコンデンサーマイクです。
マイクには大きく分けて「ダイナミックマイク」と「コンデンサーマイク」という2つのタイプがありますが、AT4040はコンデンサーマイクと呼ばれるタイプのマイクです。
コンデンサーマイクはダイナミックマイクと比べて、一言で言うと「繊細」です。そのイメージどおり繊細な音を細やかに捉えることに向いていますが、ステージ上のライブなど、大きな音がたくさん鳴っている空間や、マイクを動かしたり落としたりするような衝撃、湿気の多い場所での使用には向いていません。
そんなコンデンサーマイクの中でも、マイクによって録れる音の個性が大きく違い、一度録ってしまった音はあとから加工・編集するのが難しいため、マイク選びは慎重に行いたいところです。
AT4040は同じ価格帯のコンデンサーマイクと比べてもクセがなく(音のバランスがよく)トークからボーカル、楽器の音まで音源の種類を選ばずに配信や収録などいろいろなシーンで使うことのできる「間違いない」マイクです。
本体には2つのスイッチを搭載しています。
マイクそのもののオン・オフスイッチは搭載しておらず、ショックマウントと呼ばれる専用のホルダーを装着したマイクスタンドに固定して使うことを想定したマイクです(手で持って使うと手やケーブルを伝ってゴトゴトという大きな雑音が入ってしまいます)。
たいへん使いやすくコスパのよいマイクなので、ひとつ持っておけば、どれだけ本格的な配信や録音をするようになっても末永く愛用できる1本になるでしょう。
同価格帯(3万円周辺)で人気のコンデンサーマイクと比較してみました。
ただ、実際どのような音で録れるかはスペックからは見えづらく、組み合わせるケーブルやオーディオインターフェース、電源、録音を行う部屋の特性など様々な要素が影響するため、あくまでも参考程度にお考えください。
指向性 | レンジ [Hz – kHz] | 感度 [dBV] | セルフノイズ [dB SPL] | S/N比 [dB] | 最大入力音圧 [dB SPL] | 価格帯 [万円] | |
audio-technica AT4040 | カーディオイド | 20 – 20 | -32 | 12 | 82 | 145 – 155 | 3.2 |
Lewitt LCT440 | カーディオイド | 記載なし | -31 | 7 | 87 | 140 | 2.7 |
AKG C214 | カーディオイド | 20 – 20 | -34 | 13 | 81 | 136 – 156 | 3.5 |
RODE NT1-A | カーディオイド | 20 – 20 | -31.9 | 5 | 記載なし | 137 | 3.2 |
BLUE Bluebird SL | カーディオイド | 20 – 20 | -30.9 | 11.7 | 82.3 | 138 | 2.9 |
マイクが「音を拾う向き」を「指向性(しこうせい)」と呼びます。
どこかひとつの方向(マイクを向けた方向)の音を拾いやすいタイプを「単一指向性(たんいつしこうせい)」と呼び、音を拾う方向が狭くなるにしたがって「サブカーディオイド」→「カーディオイド」→「スーパーカーディオイド」→「ハイパーカーディオイド」→「ウルトラカーディオイド」と呼び方が変わっていきます。
今回比較したマイクはどれも「カーディオイド」なので、マイクを向ける方向はあまり厳密でなくとも大丈夫です(マイクが向いている方向の音はしっかり拾います)。
マイクが拾うことのできる音の高さの範囲です。ヘルツ(Hz)で表します。下の数値が低く、上の数値が高いほど、低い音から高い音までまんべんなく拾うことができます。
AT4040は20Hz〜20kHz(20,000Hz)と、ヒトに聞こえる音はすべてカバーしています。
マイクの「音の拾いやすさ」です。ディービーブイ(dBV)で表します。この数値が高い(0に近い)ほどマイクで拾う音が大きくなります。
AT4040も-32dBVと、同価格帯のマイクと同じ水準です。
参考までにダイナミックマイクの定番品であるSHUREのSM58は-54.5dBVと低いので、コンデンサーマイクの感度の高さがわかります。
コンデンサーマイクでは、音を入れていない(無音の)状態でもマイク自体から雑音が発生します。その雑音の大きさをセルフノイズレベルや等価雑音レベルと呼び、デシベル(dB SPL)で表します。この数値が小さいほど雑音の少ない音で録ることができます。
AT4040は12dB SPLと、同価格帯のマイクと比べるとやや高めですが、よほど小さい音を録らない限りは気になるレベルではないと思います。
基準となる音を拾ったときの大きさと、音を入れない状態でマイク自体から発生する雑音の大きさの比率です。デシベル(dB)で表します。この数値が高いほど雑音の少ない音で録ることができます。
AT4040は82dBと、同価格帯のマイクと同じ水準です。
マイクが(音を歪ませずに)受け入れられる音の大きさの限界値です。デシベル(dB SPL)で表します。これを超える大きさの音をマイクに入れてしまうと、音が歪みます。PADスイッチがあるマイクでは、PADスイッチをオンにしたときにこの最大入力音圧が上がります(より大きな音も録れるようになります)。
AT4040はPADスイッチがオンの状態で155dB SPLと、同価格帯のマイクの中でも比較的大きな音が録れるマイクであることがわかります。
AT4040は上からではなく横(audio-technicaのロゴがある側)から音が入るように使います。×の方向からでも音は録れることは録れますが、マイクの本来の性能をまったく活かせません。
AT4040はコンデンサーマイクと呼ばれるタイプのマイクであり、使用時にはファンタム電源と呼ばれる電源が必要です。
通常、マイクを接続できるオーディオインターフェースやミキサーにはファンタム電源が搭載されていますが、GAIN(マイクの入力音量)を上げた状態でファンタム電源を操作したり、ファンタム電源が入った状態でマイクケーブルの抜き差しを行うと機器が壊れてしまう可能性がありますのでご注意ください。
AT4040を含め、一般的にコンデンサーマイクは湿気に弱いため、取り扱いには注意が必要です。
詳しくは下記の記事で解説しています。
コンデンサーマイクの出しっぱなしをおすすめしない理由とその対策
AT4040は衝撃にも弱いため、持ち運ぶ場合は付属のケース(クッション付き)に入れることをおすすめします。また、使用中も落としたり物をぶつけたりと衝撃を与えないようにご注意ください。
AT4040はパソコンやスマホへ直接接続することができないため、間に「音の出入り口」となる機器が必要です。これは「オーディオインターフェース」と呼ばれています。
ただ、オーディオインターフェースにも音の個性があります。せっかくクセのないAT4040で録ったとしても、クセの強いオーディオインターフェースを通していると意図せず「味」がついてしまいます。
オーディオインターフェースにもクセのなさを求めるのであれば、ドイツの音響機器メーカーRMEのBabyfaceシリーズやFirefaceシリーズをおすすめします。
フラットな(音のバランスがよい)特性だけでなく徹底した個体差の排除やパソコンと接続した際の安定性など、業務用のオーディオインターフェースとしての信頼性がうかがえる1台です。
AT4040とオーディオインターフェースを繋ぐためのケーブルも必要です。通常、これは両側にXLR(通称キャノン)と呼ばれる端子がついたケーブルになります。
オーディオインターフェースにも音の個性があるように、ケーブルにも個性があります。
MOGAMIの2549はクセのないクリアな音が特徴なので、AT4040の良さを引き出せるケーブルだと思います。
AT4040を手で持って使うと大きなノイズが乗ってしまうため、マイクスタンドも必要です。
マイクスタンドといえば、このように床に置くタイプがスタンダードです。
デスクの上に置くタイプもあります。
クランプをデスクに固定してアームで自由に移動できるタイプもあります。YouTuberさんに人気なのがこのタイプです。
コンデンサーマイクで会話やボーカルの収録をすると、パ行(パピプペポの音)を発音したときに空気のかたまりがマイクに当たって「ボフ」というノイズが乗りやすくなります。これは、マイクと口の間にポップガードという網を立てる(マイクスタンドにクランプで取り付ける)ことで防ぐことができます。
AT4040はとても感度が高いため、マイクスタンドに直接固定してしまうと、そのマイクスタンドが置かれている部屋の床を伝わってくる音(足音など)やマイクスタンドに触れたときの音を一緒に拾ってしまいます。
これは、マイクホルダーにあたる部分をショックマウントと呼ばれる部品に交換することで、マイクスタンド側からの振動がマイクに伝わりにくくなり、意図しない音が入ってしまうのを防ぐことができます。
AT4040にはAT8449aというショックマウントが付属するため別途用意する必要はありませんが、破損や紛失した場合などは下記から個別に買い直すことも可能です。
通常の(ケーブルが下に出る)設置はもちろん、デスクに固定したときにケーブルが邪魔にならない逆さ吊り(倒立)にも対応しています。
モニタースピーカーはAmazonや楽天でも買うことができますが、あわせて価格をチェックしておきたいのが日本の楽器・音響機器の総合販売店であるサウンドハウスです。
オンラインで楽器や音響機器を買おうと思ったらサウンドハウスなしでは考えられないほど、関係者の間では定番の販売店です。
商品購入後14日以内に、他店でその商品がサウンドハウスより安く販売されている場合、差額を返金、もしくは次回利用時に割引する「最低価格保証」があります。
AT4040は、同じくaudio-technicaの大人気コンデンサーマイクであるAT2020の上位機種にあたります。
スペックで比較するとわかりますが、AT2020はAT4040よりも若干録れる音が小さい、ノイズが乗りやすい、大きい音への耐性が低いという違いがあります。
指向性 | レンジ [Hz – kHz] | 感度 [dBV] | セルフノイズ [dB SPL] | S/N比 [dB] | 最大入力音圧 [dB SPL] | 価格帯 [万円] | |
AT4040 | カーディオイド | 20 – 20 | -32 | 12 | 82 | 145 – 155 | 3.2 |
AT2020 | カーディオイド | 20 – 20 | -37 | 記載なし | 71 | 144 | 1.1 |
しかしAT2020は1万円強という衝撃的な安さです。マイクに3万はちょっと…とお考えの方は、まずはAT2020から入り、ステップアップとして将来的にAT4040を考えてみるというのも良いかもしれません。
巷には本当にたくさんのマイクがあふれる中、特にこれといった欠点・デメリットが見つからないということ自体が衝撃でした。
このようにクセのない「基準」となるマイクを持っておくと、配信ソフトやDAWなどで音にエフェクトをかけるときもエフェクトの効果がわかりやすく、他のマイクが欲しくなったときの比較がしやすくなるでしょう。
小山和音
こやま・かずね
音楽教育の新しいかたち作り(創造性と個性を最優先に、音楽を教えず、評価せず、楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくるオンラインの音楽教室)と、音の生まれるしくみ作り(周囲の条件に反応して音楽や音声をリアルタイムに生み出すシステム開発)。