ソニーのMDR-CD900STは、レコーディングスタジオから撮影現場までどこに行っても見かける業界標準のモニターヘッドホンです。
YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE(ザ・ファースト・テイク)」に登場するアーティストが使っていることで話題になったので、見たことがある方も多いかもしれません。
SONYのMDR-CD900ST(通称「900ST」「赤帯」)は発売から30年を超え、日本でいちばん普及しているといってもよいほどよく見かけるモニターヘッドホンで、定番中の定番として有名です。
音はとても硬く耳のすぐ近くに張り付くように聞こえるため、音楽を楽しむためのヘッドホンではありませんが、音声や動画に入り込んだわずかなノイズもしっかりと見つけ出すことができます。
このMDR-CD900STは外に音が漏れず、レコーディング中や配信中など、同時にマイクを使う場面でのモニタリングに使うことができます。
モニターヘッドホンの中でも軽くて小さいため、外出先での作業にも困りません。
業界標準ということもあり、オプションパーツが充実していたり、どこでも修理を依頼できるなど安心感があります。
同価格帯(2万円周辺)で人気のモニターヘッドホンと比較してみました。
ただ、実際どのような音が出るかはスペックからは見えづらく、再生する音源、組み合わせるオーディオインターフェース、電源、聴く人の年齢や耳の形など様々な要素が影響するため、あくまでも参考程度にお考えください。
タイプ | 周波数特性 [Hz – kHz] | ケーブル | プラグ | 折りたたみ | 重さ [g] | 価格帯 [万円] | |
SONY MDR-CD900ST | 密閉型 | 5 – 30 | ストレート 着脱不可 | 標準 | 不可 | 200 | 1.5 |
audio-technica ATH-M50x | 密閉型 | 15 – 28 | ストレート/カール 着脱可 | ミニ (標準アダプタ付属) | 可 | 285 | 1.9 |
SONY MDR-7506 | 密閉型 | 10 – 20 | カール 着脱不可 | ミニ (標準アダプタ付属) | 可 | 230 | 1.0 |
AKG K712 PRO | 開放型 | 10 – 39.8 | ストレート 着脱可 | ミニ (標準アダプタ付属) | 不可 | 298 | 2.7 |
YAMAHA HPH-MT8 | 密閉型 | 15 – 28 | ストレート 着脱式 | ミニ (標準アダプタ付属) | 可 | 350 | 2.7 |
モニターヘッドホンにはこのような種類がありますが、
このMDR-CD900STは「密閉型(オープン)」のため外に音が漏れにくく、レコーディング中や配信中など、同時にマイクを使う場面でのモニタリングに使うことができます。
ヘッドホンが再生することのできる音の高さの範囲です。ヘルツ(Hz)で表します。下の数値が低く、上の数値が高いほど、低い音から高い音までまんべんなく再生することができます。
人間が聴くことのできる音の範囲は最大で20Hz – 20kHz(20,000Hz)とされていますが、MDR-CD900STは5Hz〜30kHzと、それよりもさらに広い範囲をカバーしています。
まっすぐなケーブルを「ストレート」、バネのような形をしていて伸縮するケーブルを「カール(カールコード)」と呼びます。
ケーブルがヘッドホン本体に固定されているもの(着脱不可)は、仮にケーブルが破損したり不具合が生じたときに本体ごと修理に出すことになってしまいますが、ケーブルを着脱できるヘッドホンであればケーブルを交換するだけで済みます。
MDR-CD900STは伸縮しないストレートのケーブルが本体に固定されている(着脱不可)タイプです。
MDR-CD900STのプラグは標準(6.3mm)フォーンと呼ばれる、業務用機器でよく使われている端子です。
ところがパソコンや一昔前のスマホなどのヘッドホン端子は、同じフォーンですがひとまわり小さいミニ(3.5mm)フォーン(ステレオミニ)と呼ばれる端子なので、MDR-CD900STをパソコンやスマホへ直接接続したい場合はアダプタが必要です。
ヘッドホンを折りたためるとケースに入れた状態での持ち運びに便利です。MDR-CD900STは標準状態では折りたたみができませんが、折りたたみ用のパーツを購入して交換することで折りたたみができるようになります。このようにオプションパーツが豊富なところも業界標準製品の強みです。
ヘッドホンは直接頭に装着するため重いほど圧迫感を感じやすいものですが、MDR-CD900STはモニターヘッドホンの中でもかなり軽く、圧迫感はまったく感じません。
また、ヘッドホンが頭を押さえつける力(側圧)もほどよいため疲れにくく、ヘッドバンドが適度にしなやかなので頻繁につけたり外したりする現場でもありがたい設計だと感じます。
MDR-CD900STは女性の声や金属同士がふれ合う音など、中くらい〜高い音の表現は問題ありませんが、男性の声の低い部分や身体に響くような「ズン」という音など、低い音は見えづらいヘッドホンです。
そのため、仮にこのヘッドホンだけでイコライジング(音の成分調整)を行って、低い音がちょうどよく聞こえる程度にしたつもりでも、他のスピーカーやヘッドホンでは低い音が過剰な状態になってしまう、ということになりかねません。
低音を楽しみたいゲームや映画にもおすすめできません。
低い音の聞こえ方もチェックしたい場合は、低い音の再現に向いた他のスタジオモニタースピーカーやモニターヘッドホンを併用することをおすすめします。
あらゆる音が耳のすぐそばで鳴るため、意図せず入り込んだノイズやエフェクトの利き具合などを簡単に聞き分けることができます。
しかしその音の近さのせいか聴き疲れにつながりやすく、あまり長時間の作業には向かないと筆者は感じます。
MDR-CD900STのプラグは標準(6.3mm)フォーンと呼ばれる大きいタイプで、スマホやパソコンのヘッドフォン端子(ミニ(3.5mm)フォーン)に接続したい場合はアダプタが必要になります。
しかし標準プラグにミニプラグのアダプタを付けるととても長く、場所をとるので注意が必要です。
こういった問題もそうですが、音質の向上や遅延の短縮のためにもパソコンやスマホに直接接続するのではなくオーディオインターフェースを用意することをおすすめします。
MDR-CD900STはアダプタを使えばパソコンやスマホへ直接接続することができますが、せっかく買ったヘッドホンの性能を活かすためにも、ヘッドホンとパソコン・スマホの間にオーディオインターフェースと呼ばれる機器をはさむことをおすすめします。
オーディオインターフェースを用意することで、直接接続する場合に比べて音質の向上やノイズの抑制が期待できるだけでなく、音の遅れ(遅延)を短縮できるためモニタリングがぐっと快適になります。
ただ、オーディオインターフェースにも音の個性があり、クセの強いオーディオインターフェースを通していると「味」のついた音がヘッドホンへ送られてしまいます。
オーディオインターフェースにもクセのなさを求めるのであれば、ドイツの音響機器メーカーRMEのBabyfaceシリーズやFirefaceシリーズをおすすめします。
フラットな(音のバランスがよい)特性だけでなく徹底した個体差の排除やパソコンと接続した際の安定性など、業務用のオーディオインターフェースとしての信頼性がうかがえる1台です。
MDR-CD900STはオプションパーツが豊富なため、自分好みにカスタマイズできてしまいます。例えばこのイヤーパッド(耳に当たる部分のクッション)は純正品よりも厚みがあり、標準状態では耳が当たって痛い方には試していただきたい1品です。
スマホやパソコンのなどのヘッドフォン端子(ミニ(3.5mm)フォーン)に900STを直接接続したい場合はアダプタが必要です。
ヘッドホンはデスクに置いておけますが、なにかとスペースをとるので、このようなヘッドホンハンガーを用意しておくとデスクの上がすっきり広く使えます。
このヘッドホンハンガーであればデスクの天板や脚、マイクスタンドなど様々な場所に取り付けることができます。ヘッドホンを置く部分をクランプに取り付けるためのネジ穴が3ヵ所あるので、色々なパターンを試しながら快適な位置を決めることができます。
モニタースピーカーはAmazonや楽天でも買うことができますが、あわせて価格をチェックしておきたいのが日本の楽器・音響機器の総合販売店であるサウンドハウスです。
オンラインで楽器や音響機器を買おうと思ったらサウンドハウスなしでは考えられないほど、関係者の間では定番の販売店です。
商品購入後14日以内に、他店でその商品がサウンドハウスより安く販売されている場合、差額を返金、もしくは次回利用時に割引する「最低価格保証」があります。
実はMDR-CD900STにはすでにMDR-M1STという後継機があるのですが、あまりにも900STが有名すぎるのか、まだこのM1STは知る人ぞ知るレベルにとどまっている印象です。
900STが再現できるいちばん高い音は30kHzですが、後継機M1STは80kHzと大きく広がっていたり、900STでは着脱できなかったケーブルが着脱に対応したりと、現代的にアレンジされた1台となっています。
複数人がそれぞれまったく違った環境でモニタリングをしていると、自分にとっては低音が物足りない音、ある人にとっては耳が痛い音、また別の人はちょうどいい音…というように認識のずれが生まれてしまいがちです。
しかし900STほど普及したヘッドホンであれば誰でも持っている(どこにでもある)ので、900STを基準にしてしまえば共同作業がスムーズです。
また、他のヘッドホンが欲しくなったときも、900STの音は誰でも知っているのでそれを基準に相談がしやすくなると思います。
小山和音
こやま・かずね
世界にひとつだけのオリジナルの楽器をデザインし、五線譜ではない楽譜やドレミではない音律をグループで話し合って作り、それらを使って音楽をゼロから創作する音楽教育プログラムを中心に、音(楽)にまつわるユニークな取り組みをしています。お仕事のご依頼やコラボレーションのご提案など、お気軽に!