クリエイターやアーティストが自分の作品をNFT化して販売する、ということが一般的な時代になりました。
それにより、これまでの時代では生活のために仕方なく別の仕事をしていたクリエイターやアーティストも「本来の制作活動で食べていく」ことが一気に現実的になりました。
この記事では、その具体的な方法を解説しています。
NFTは、乱暴に説明するとデジタルな一点もののようなものです。*1
これまでデジタルな世界(コンピュータの中の世界)では、どれだけ有名な画家が描いた絵であっても、いくらでもコピーできてしまい、本物(オリジナル)を持っている人が誰なのかわからず、所有しているデータに価値があるとは感じにくい状態でした。
そこに登場したのがブロックチェーンという技術です。これを使えば、とある情報(例えばその絵の所有者は私だという情報)を世界中の何千万〜何億というコンピュータ(ブロックチェーン)に拡散させるため、その情報を改ざんするのがとても難しいとされています。
このブロックチェーンを利用して、作品の所有者を特定(証明)できるようにしたしくみがNFTです。*2 *3
*1:わかりやすさ重視で「一点もの」としましたが、実際は何点もの(数量限定品)でも作ることができます。
*2:正確には、いわゆる独自コントラクトであれば特定できますが、OpenSeaの共有コントラクト(Lazy-minting)では特定できません。独自コントラクトは特定できる代わりにガス代が高く、共有コントラクトは特定できない代わりにガス代がかかりません。
*3:「NFT」そのものは所有者に与えられるトークンの総称ですが、この記事では便宜上しくみの名前として解説します。
ここで、誤解されやすい点がひとつあります。NFTはあくまでも「所有証明書」のようなものであって、コピーを防止する技術ではありません。そのため、たとえNFT化された作品を買ったとしてもその作品そのものはこれまでのデジタルデータと同じで、いくらでもコピーできてしまいます。
とはいえ「オリジナルを持っているのはこの人です」という情報はすでに世界中に拡散されているので、すなわち「この作品の価値を所有しているのもこの人です」ということが証明でき、その作品を売りに出そうとしたときも値段がつきます。
NFTは「鑑定」のようなものかもしれません。
もうひとつありがちなのが「NFT作品を買うと著作権も手に入る」という誤解です。
NFT作品を買うことで手に入るのは作品の所有権であって、知的財産権(著作権など)は手に入りません(原作者が持ったままです)。
そのため、作品をNFT化する=その作品が二次創作(改変やリミックスなど)の材料に使われてしまう、ということではありません。
もちろん、原作者であるあなたが許可をすれば二次創作はOKとなりますが、何も宣言をしない状態ではいわゆるコピーライト(改変やリミックス、再販売などを禁止する)状態となります。
あなたの作品にどのようなライセンスをつけるべきかは、こちらの記事で詳しく解説しています。
作品を出品する側(クリエイター・アーティスト)からみたメリットとデメリットです。
これまでの物理世界では、作品が転売された(二次流通がおこった)とき、原作者へは1円も入りませんでした。
ところがNFTでは所有者を証明するだけでなく、追跡することができます。例えばとある作品の所有者が変わったとき、この「所有者が変わった」という情報も同じくブロックチェーン上に拡散されるためです。
このしくみによりNFT作品は、「転売されたときに原作者へ購入代金の一部が支払われる」というように設定することも可能です。つまりクリエイターやアーティストは、「作品を売る」だけでなく「作品を売らせる」ことで利益を得ることもできるようになりました。
物理世界のアート作品は、投資対象としてみられることもありました。
例えば、今は無名だが将来有名になりそうなアーティストの作品を安く買っておいて、実際そのアーティストが有名になったタイミングで作品を高く売ることができました。
NFTを使うことでデジタルの世界でもこれと同じことができるようになり、さらに転売されたタイミングでさらに収益を得ることもできます。
つまりクリエイター・アーティスト側からみれば、将来有名になれば自分の作品を買ってくれたお客さんも儲かるのでハッピー、転売されたとき自分にも収入が発生するのでハッピー、ということになります。
出品するブロックチェーンによっては、ガス代と呼ばれる手数料が高くつくことがあり、これはアーティストにとっても、作品を買う側にとっても負担になります(後ほど詳しく解説します)。
インターネット上の仮想世界である「メタバース」も、NFTなしでは成り立ちません。
メタバースには物理世界と同じように土地があり、建物があり、私たちの分身であるアバターが着ている服やアクセサリーがありますが、それらはすべて所有者が決まっていて、それをNFTで証明できるため、私たちは安心して持ち物を売ったり買ったり(所有権をお金と交換)することができます。
つまりメタバース上でも物理世界と同じように「モノ(アイテム)」に価値がつくため、物理世界とメタバース両方で活躍するアーティストでも、メタバースに専念するデジタルアーティストであっても、じゅうぶんに生計を立てられるしくみが整っています。
メタバースがこれから10〜15年ほどかけて世の中に浸透すると考えると、今のうちに知識と経験を蓄えておくのも手ではないかと思います。
ちなみにNFTには作品だけではなく、もっとたくさんの顔があります。
例えばファンクラブの会員証やコンサートのチケット。特にチケットは転売目的で買い占められてしまうことが問題になっていましたが、NFTチケットであれば転売時にアーティストや主催者へ利益の一部が還元されるように設定することもできます。その結果、転売で利益が出づらいと判断されれば転売行為そのものが行われなくなると期待できます。
その他にも家の鍵やメールアドレス、ドメインなど、持ち主と紐付くことに意味があるものは何でもNFTになりえます。
作品をNFT化するのは、とても簡単です。
作品のデータ(例えばイラストや写真であればJPG、音声であればWAV、動画であればMP4など)をNFTマーケットプレイス(NFT作品など、世界中のNFTが販売されている場所)にアップロードするだけです。
つまり、マーケットプレイスが対応しているファイル形式であれば、何でもNFT化することができるということになります。
世界中のマーケットプレイスを下記の基準で比較してみました。これに該当しないマーケットプレイスは掲載していません。
出品手数料 | 販売手数料 | 対応 ブロック チェーン | 対応通貨 | 法定通貨 決済 | 出品時の 審査 | |
OpenSea | Ethereum(Lazy-minting):初回のみガス代。2回目以降は無料 Polygon:無料 Solana:とても安い | 2.5% (売り手のみ) | Ethereum Polygon Solana Klaytn | ETH SOL USDC DAI など | 日本では非対応 | なし |
Rarible | 無料〜ガス代のみ (ブロック チェーン次第) | 2.5% (売り手・買い手) | Ethereum Polygon Solana Tezos Flow | ETH SOL XTZ FLOW | 固定価格のみ対応 (カード決済) | なし |
どちらのマーケットプレイスも
など様々なものを出品可能です。
画像 | 音声 | 土地 | ドメイン | |
OpenSea | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
Rarible | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
アメリカ・ニューヨークに本社を置くOzone Networksが運営するOpenSea(オープンシー)は2022年7月現在、世界最大のNFTマーケットプレイスとされています。
アメリカ・デラウェア州ウィルミントンに本社を置くRarible, Inc.が運営するRarible(ラリブル、レアリブル)は、世界的に知名度のあるNFTマーケットプレイスです。
作品をNFTマーケットプレイスに出品(ミント)するとき、ブロックチェーンに加える変更が正しいことを第三者が確認するという作業(承認)が必要になります。
この承認作業は出品者自身ではなく、ブロックチェーン上の他のコンピュータが行います。この作業をしてくれたお礼に払うのが通称「ガス代」と呼ばれる手数料です。
そのため、ガス代はマーケットプレイスではなく、そのとき承認作業をしてくれたコンピュータの持ち主へ支払われます。
このガス代はブロックチェーンが混雑しているとき(取引が活発なとき)ほど高く、誰も取引を行っていない時間帯には安くなります。
また、ブロックチェーンの種類や作業内容によってガス代の相場も変わってくるため、一概にいくら、ではなく「このブロックチェーン上でこのような作業をすると、今の時点でいくら」という感じです。
安いブロックチェーンであれば何でもよいというわけはなく、市場が小さい(ユーザーが少ない)ブロックチェーンでは買い手が少ない、オークションができない場合があるなど、それなりの制限があります。
このガス代は円やドルではなく、ブロックチェーンごとに決まった暗号資産で支払うことになります。つまり、NFTを出品する場合は(ブロックチェーンや出品方法によっては)暗号資産が必要になるということです。
必要なステップとしては
となります。
ほとんどのプラットフォームでは、作品が売れたときや転売されたとき、暗号資産として収入が発生します。
暗号資産は円やドルと同じように価格が変動するため、作品の売り上げを日本円に換えるタイミングによっては損をしたり得をしたりします。
基本的にどのプラットフォームでも円やドルではなく、暗号資産(仮想通貨)を使って取引が行われています。そのため、作品を出品するときの値段設定も暗号資産、実際の売り上げや転売されたときの収入も暗号資産となります。
暗号資産を使った取引や売買などは課税の対象となりますので、詳しくは最寄りの税務署や暗号資産に詳しい税理士さんなどにご相談されることをおすすめします。
すぐに日本円に換えない場合は、売り上げはオンラインウォレット(暗号資産の財布)に残りますが、通常のオンラインウォレットは外部(インターネット上)からハッキング(不正アクセス)を受けると、中身の暗号資産を盗まれてしまう可能性があります。
収入がある程度(盗まれると困るくらい)貯まってきたけれど日本円には換えたくない場合、ハードウェアウォレットと呼ばれるUSBメモリのような機器を用意しておくと安心です。
ハードウェアウォレットは、暗号資産やNFTなどを動かすときに必要になる「秘密鍵」をインターネットから隔離された物理デバイスの中に保管することで、資産を安全に保管するためのツールです。
ハードウェアウォレットではLedger社(フランス)のNanoシリーズ、SatoshiLabs社(チェコ)のTrezorシリーズが最もポピュラーで情報も豊富です。
!注意!
ハードウェアウォレット購入時は、正規代理店から販売されている正規品であることを必ず確認してください。悪意のある個人や代理店から購入してしまうと、ウォレットに入れた資産をすべて盗まれてしまう可能性があります。
すぐに日本円に換えない場合は、もうひとつのリスクとして激しい価格変動を頭に入れておきたいところです。
暗号資産は円やドルなどの法定通貨と比べて価格の上下が激しく、持っている額にもよりますが寝ている間に数十万円が増えたり減ったりということも珍しくありません。
法定通貨と価格が連動するように作られた暗号資産(ステーブルコイン)に換えるという手もありますが、発行者が国家ではなく一企業であることが多いということを考えると、あえて法定通貨ではなくステーブルコインを持つ明確な理由がない限りはおすすめできません。
日本円に換える場合は、
といった作業が必要です。
NFTには暗号資産が絡むため難しく感じるかもしれませんが、インターネットというテクノロジーを当たり前に使っているのと同じように、15年後にはブロックチェーンという言葉さえ使われなくなっているかもしれません。
だとしたら、早いうちに慣れ親しんでおくとよいのではないかと思います。
小山和音
こやま・かずね
音楽教育の新しいかたち作り(創造性と個性を最優先に、音楽を教えず、評価せず、楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくるオンラインの音楽教室)と、音の生まれるしくみ作り(周囲の条件に反応して音楽や音声をリアルタイムに生み出すシステム開発)。