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絶対音感は本当に必要なのか?絶対音感を持つ音楽家目線でまとめてみた

2018年1月23日

そもそも絶対音感とは何でしょうか?絶対音感というのは、聞こえた音の高さを何とも比べずに認識できる感覚のことです。

お子さんをお持ちの方や、将来の子育てを考えておられる方の中ではしばしば話題になる「絶対音感」。そもそも本当に必要でしょうか?適度な絶対音感を持ち、音楽家として活動してきた筆者の目線から振り返ってみます。

絶対音感は「ある」か「ない」かの二択ではない

これはあまり知られていないようですが、絶対音感は「ある」か「ない」かという基準だけでは測ることができません。

絶対音感を持つ人でも、特定の楽器の音だった場合がいちばん正解率が高く、ほかの楽器の音や電子音だと正解率が下がったり、特定の音だけ正解率が高かったりします。

たとえば筆者の場合、母親がピアニストであり、記憶にないくらい小さい頃から家にあったピアノで遊んでいましたが、黒鍵が嫌いで白鍵ばかり使っていたせいか今でも白鍵(ピアノでいう白い鍵盤)の音は比較的簡単に頭の中で鳴らせるので、ギターやベースは数秒もあればチューナーや音叉を使わずにチューニング(各弦の音程の調整)ができるし、演奏中にチューニングのズレに気づいて演奏しながらその場で直すこともできます。

逆に黒鍵(ピアノでいう黒い鍵盤)の音は単体で聞いても即座にわからないのでまず頭の中で白鍵の音を鳴らしてから比べます。なので、絶対音感があるかどうか聞かれたときは「半分ある」と答えています。しかもその「ある」方の絶対音感も、強い方ではありません。

絶対音感は本当に必要なのか?

お子さんに絶対音感を身につけさせたいと思っている方もみえるかもしれませんが、少し慎重になられた方がいいかもしれません。というのは、絶対音感も良いことばかりではないためです。まずは長所から見ていきましょう。

長所(1) 職業音楽家としては、現場で便利

バンドでよくある「キー(調)をひとつ上げる」というような場面でもすんなり対応できます。ステージに立つギタリストやヴァイオリニストなら、たとえ演奏中でも一瞬でチューニングを直してしまえるので、曲の合間に時間をとることもありません。このような試験や授業を導入している学校でも有利になります。

長所(2) 「耳コピ」が簡単

「耳コピ」というのは耳でコピー、つまり聴いて真似することです。筆者は簡単にできるので、ミュージシャン時代は楽譜を読まずに音源だけ聴いて曲を暗記していたし、他の楽器のソロを聴いてソロで返すときに会話のようなやりとりができて楽しかったです。

そして注目したい短所です。

短所(1) インスピレーションの枯渇

筆者の中ではこの影響が大きいです。たとえば私は小さい頃、他のキー(調)に比べて圧倒的に白鍵だけのキーを多く弾いて(聴いて)きたので、頭でその音の組み合わせや配列の感じをハッキリ覚えてしまっているが故にそのキーや、構成音が似たキーで作曲や即興演奏をするときインスピレーションが枯渇しやすくなっています。

短所(2) 日常生活が少し面倒になる可能性

筆者は違うのですが、絶対音感が強い人はエアコンの音、バイクの音、鳥の声、電子音などがすべて音程として聞こえる方もいらっしゃるらしく、必要なときにそのメリットを享受できればいいのですが、耳を閉じることは簡単ではないので聞きたくないときに聞こえてくる音によって集中を妨げられたり、疲れてしまう可能性も否定できません。

短所(3) 薬の副作用

咳止め薬や抗てんかん薬の副作用からくる音感の異常で不快感を覚えることがあるようです。

短所(4) 「移動ド」の違和感

これは音楽専門学校や音楽大学に限ったことですが、実技系の授業や試験の中に「移動ド」(たとえばDで始まるメジャースケールを、音程はそのままで、読み方だけレミフィソ…ではなくてドレミファ…で歌う)があると、強い絶対音感がある人は、違和感がありすぎてうまく歌えないことがあります。ちなみに筆者は、移動ドの違和感はまったく感じません。

どうしたら絶対音感が身につくのか?

これらの長短を把握した上で、絶対音感を自分のこどもに身につけさせたい場合、どのようにしたらよいのでしょうか?音感についての数々の研究によると、聴覚が発達する時期(critical period / 臨界期)にトレーニングを行うことで絶対音感が身につく可能性があるという説[1][2]と、そのようなトレーニングで絶対音感が身につくことはない[3][4][5][6]、あるいはトレーニングをしなかったことで元からあった絶対音感が失われることはない[7][8]という真逆の説があり、確実なことは言えない状況です。

どのくらいの音感がちょうどいいかはその人次第

絶対音感を「半分」持ち、演奏家や作曲家として活動してきた経験から考えると、私の音感は絶妙なちょうどよさだと思います。音感の利点を最大限に活かせているし、よく使うキーに飽きてはいるものの日常生活にはまったく支障もありません。ただし、幼い頃の筆者のようにキーの偏りがないようにすればちょうどいい音感が身につくという保証はどこにもありません。筆者はたまたま音と音楽を扱う道に進んだので絶対音感の利点を利点と思えますが、違う道を歩む人にとってはあまり関係がなく、むしろ日常生活にハンデがつくということにもなりかねません。何がちょうどいいのかは、その人本人が何をするかによって大きく変わってきます。

強制しないのが一番無難

個人的には、お子さんの意思を尊重する、つまりやりたいようにやらせてあげるのが一番かと思います。実際私もそうでしたが、親に白鍵だけしか弾かせてもらえなかった訳ではなく、自分から好き好んで白鍵しか弾かなかった、そして黒鍵を弾くように親から強制されてもいないので、私は完全に自分の意思だけでちょうどいい音感を身につけたことになります。どのくらいの音感がちょうどいいのか分からないのであれば、せめてお子さんの意思を第一に考えてあげるのが無難かそれ以上の結果を生むのではないかと思います。

参考文献
[1] Sakakibara, A. (2004). “Why are people able to acquire absolute pitch only during early childhood?: Training age and acquisition of absolute pitch”. Japanese Journal of Educational Psychology. 52: 485–496.

[2] Chin, C. (2003). “The development of absolute pitch”. Psychology of Music. 31 (2): 155–171. doi:10.1177/0305735603031002292.

[3] Oura, Y.; Eguchi, K. (1982). “Absolute pitch training program for children”. Music Education Research. 32: 162–171.

[4] Sakakibara, A. (1999). “A longitudinal study of a process for acquiring absolute pitch”. Japanese Journal of Educational Psychology. 47.

[5] Miyazaki, K.; Ogawa, Yoko (2006). “Learning of absolute pitch by children”. Music Perception. 24 (1): 63. doi:10.1525/mp.2006.24.1.63.

[6] Lau, C.K. (2004). “The acquisition of absolute pitch for the mainstreamed, special educational needs and academically talented under Lau Chiu Kay Music Educatherapy”. Journal of the Acoustical Society of America. 116 (4): 2580. Bibcode:2004ASAJ..116.2580L. doi:10.1121/1.4785301.

[7] Abraham, O. (1901). “Das absolute tonbewußtsein”. Sammelbände der Internationalen Musikgesellschaft. 3: 1–86.

[8] Saffran, J. R. & Griepentrog, G. J. (2001). “Absolute pitch in infant auditory learning: Evidence for developmental reorganization” (PDF). Developmental Psychology. 37 (1): 74–85. doi:10.1037/0012-1649.37.1.74. PMID 11206435.

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筆者プロフィール
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小山和音(こやま・かずね)

オランダ在住の音楽家。「評価しない・教えない・自分たちで作る」にフォーカスしたオンラインの音楽学校、音声や音楽に特化したソフトウェア開発、音や音楽を扱うワークショップや講座、音楽レッスン、作曲・即興演奏などを本業としています。

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