電気やコンピュータを使って音を扱う方法についてわかりやすく解説します。
まず、電話やカラオケ、インターホン、音声認識など日常のあらゆる場面で使われているマイク(正式名称はマイクロフォン)。これは空気の振動を電気信号に変換する機器です。
マイクの種類やしくみについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
空気の振動を拾うマイクとは違い、楽器自体や弦の振動を電気信号に変換する機器をピックアップと呼びます。
永久磁石の周りに電線を巻きつけたのが、マグネティック型です。空気の振動ではなく金属の振動を拾うため、マイクのようには使えません(ピックアップに向かって大声を出しても音は拾いません)。
ピックアップが一つのシングルコイルと呼ばれるタイプは歯切れの良い軽快な音が特徴で、磁石の向きを入れ替えた二つのピックアップを縦に並べたハムバッキングというタイプは重厚で温かみのある音が特徴です。
赤と青は、それぞれの矢印の方向から見たときのピックアップの構造を表しています。
テレビ、スマートフォン、放送などあらゆる場面で使われているスピーカー。これはマイクとは逆に、電気信号を空気の振動に変換する機器です。
スピーカーの種類やしくみについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
電気信号を振動(音)に変える機器の中で、耳(頭)に装着するものをヘッドフォンと呼びます。
ヘッドホンの種類やしくみについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
モニターヘッドホンのおすすめ3選【配信・YouTube・DTM】
機材が揃ってくると、このような問題が出てきます。
そこで、オーディオインターフェースという機器を使います。
オーディオインターフェースはUSBやThunderboltでパソコンと繋げて使います。
XLRや標準フォーンの入力端子、インピーダンスの切り替えスイッチやファンタム電源を備えています。スタジオモニターとヘッドフォン両方を繋ぎ、切り替えて使うこともできます。
オーディオインターフェースの種類やしくみについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
オーディオインターフェースのおすすめ2選【配信・YouTube・DTM】
音源の数やマイクの本数はチャンネル(ch)という単位で表します。
1種類の音声はモノラル、2種類の音声はステレオ、3種類以上の音声はサラウンドと呼ばれ、音源の数やマイクの本数が1つのものは1ch、2つのものは2ch、3つのものは3chとなります。
それらを流すスピーカーが1つだと1ch、2つでは2ch、5つでは5chと呼ばれ、ウーファー(低域専用スピーカー)は0.1chとカウントされるので例えば2chにウーファーを追加すると2.1chとなります。
機器と機器の間を繋いで信号を送るケーブルの端についているコネクタ(端子)についてです。
ケーブルのコネクタ(先端)にはオスとメスがありますが、基本的にオスはケーブル側、メスは機器側についています。
XLR(キャノン)はマイクやスピーカーケーブルなどによく採用されているコネクタです。
奥まで差し込むと「カチッ」という感触があり、メス側にあるボタンを押しながらでないとコネクタが外れないようになっています。
アナログ信号を流す場合、ノイズに強い「バランス接続」ができます。AES/EBUという規格でデジタル信号を流すこともでき、これは業務用の機材によく使われています。
TRS / TS(フォーン)はヘッドフォンから電気楽器やコントローラまであらゆる場面で採用されているコネクタです。
という3種類があります。
爪はないので、引っ張ると簡単に抜けます。
プラグに入っている線が1本のものは1種類の信号だけ流すことのできるTS、2本のものは2種類の信号を流すことのできるTRSで、TRSはノイズに強いバランス接続ができます。
コンボジャックはXLRと標準フォンプラグどちらでも繋がるコネクタです。ミキサーやオーディオインターフェースなどの入力端子に採用されています。
RCA(ピン)は家庭用のオーディオ機器やテレビなどによく採用されているコネクタです。
白が左、赤が右チャンネル用、黄色は映像信号用です。
アナログ信号を流す場合はバランス接続ができません。
S/PDIFという規格でデジタル信号を流すこともでき、こちらは業務用の機材によく使われています。
スピコンはパワーアンプとPA(SR)スピーカーの間の接続によく使われているコネクタです。
差し込んで回転させると「カチッ」という感触があり、オス側のボタンを押しながら回転させないとコネクタが外れないようになっています。
ライブハウスやコンサートホールなどで扱われるので、自宅スタジオで使うことはありません。
コンピュータ(俗に言うパソコン)も、音楽・音響の世界で欠かせません。
パソコンには、据え置き前提のデスクトップと、持ち運び前提のラップトップ(日本では「ノートパソコン」)があります。
デスクトップは本体、ディスプレイ(画面)、キーボード、マウスやトラックパッド、場合によってはスピーカーやマイクなどがそれぞれ分かれていますが、ラップトップではこれらがすべて一つの本体にまとまっていて、デスクトップより軽量に作られています。
そのぶんラップトップはデスクトップよりも性能が低いことが多いですが、一概にそうとも言えません。
ラップトップであってもある程度のスペックがあれば音楽制作にもじゅうぶん耐えられます。
パソコンの性能をチェックするときに、まず見ておきたいのがスペック(仕様)です。
スペックにもいろいろありますが、見ておきたいのはCPU(プロセッサ)、RAM(メモリ)、ストレージ(ディスク)、そしてディスプレイ・解像度です。
コンピュータ上のデータの大きさを表す単位としてB(バイト)があり、B(バイト) → MB(メガバイト) → GB(ギガバイト) → TB(テラバイト)の順に大きくなっていきます。
パソコンを人間に例えるなら、CPUの速度は「頭の回転の速さ」。
例えば2.8GHz(ギガヘルツ)など、Hz(ヘルツ)という単位で表されますが、この数値が高いほど処理のスピードが早いと考えてよいでしょう。
スピードが足りないと感じる場合は交換や増設できるものもありますが、あまり一般的ではないようです。
CPUの性能を見ていると「デュアルコア(Dual core)」や「クアッドコア(Quad core)」という表現を見かけますが、このコアは人間に例えるなら脳のようなもので、1つの頭(CPU)の中にいくつの脳(コア)があるかを表しています。
コア数が多ければ音楽制作など膨大な量の作業を効率的に素早く処理することができます。
RAMの容量は人間が作業するときの「机の広さ」のようなものです。
例えば16GBなどB(バイト)という単位で表され、この数値が高いほどたくさんの作業を効率よくこなすことができます。
RAMが足りないと感じる場合、多くのパソコンは交換や増設ができるようになっています。
必要な容量どの程度のRAM容量が必要かはもちろんどのような作業をするかで決まってきますが、一般的なDAWに必要な容量から判断するなら、最低でも2GB以上は欲しいところです。
ストレージの容量は「収納スペースの広さ」。
例えば500GBなどB(バイト)で表され、この数値が高いほどたくさんのデータを保存しておくことができます。
ストレージが足りなくなった場合、本体のディスクの交換や増設ができるものもありますが、USBやThunderboltで接続できる外付けのストレージを用意したり、他のストレージ(クラウド)にデータを保存したりする方がより簡単で一般的です。
最近では薄い財布のサイズに1〜2TBほどのデータを保存できるようになっています。
音楽制作をしていると、大容量のファイルを大量に扱うことになります。よく使われているWAVという形式で1分間の音声は、昔のCD程度の音質(44.1kHz/16bit)なら約10MB(メガバイト)ですが、業務で使われる192kHz/24bitのものは約65MBにもなり、5分の作品が10曲あるとしたら3.2GB(約3250MB)になってしまいます。
例えば写真や動画はパソコン内蔵のストレージではなくクラウドや外付けのストレージに移動するなどして内蔵ストレージの容量を確保することもできます。
どの程度の音質のデータをどの程度の量扱い、どのようなデータをどこに保存するかによって必要な容量は変わってきます。
ストレージに保存したデータは、作業ミスやストレージ自体の異常・故障、データを人質に取って身代金を要求するランサムウェアなど様々な理由で失われてしまうことがあります。このような時のために取っておく予備のコピーをバックアップと呼びます。バックアップはもちろん手動でも可能ですが、一定時間ごとに自動でバックアップを取ることのできるOS・ソフトウェアもあります。バックアップの容量も確保しておきましょう。
昔のパソコンはハードディスクドライブ(HDD)という種類のストレージを内蔵していましたが、今はソリッドステートドライブ(SSD)という種類になっています。HDDは衝撃に弱く、データの読み書きが遅めで動作音もしますが、SSDは衝撃に強く、データの読み書きが速く、動作音がないという特徴があります。
2022年8月現在、外付けのストレージを選ぶとしたらまだSSDはHDDよりも高めなので、HDDを選んでおいてもよいと思います。この価格差と容量の差はだんだん埋まっていくので、今後数年間の変化に注目したいところです。
ディスプレイの広さは作業する人の効率に大きく影響します。ディスプレイのサイズはインチ(1インチ=2.54cm)で表され、対角線(角と角を結ぶ線)の長さが何インチかで表されます。
ディスプレイの解像度は、画面に何かを表示するときの「点」であるピクセルの数です。例えば2880 x 1800という解像度は横にピクセルが2880個、縦に1800個並んでいることになります。同じディスプレイのサイズなら、解像度が大きいほど細かいところまで見え、小さいほど粗く見えます。
家で使うときは大きな外部ディスプレイや外部のキーボード・マウスを繋いでしまえば、まるでデスクトップのように使うことができます。
Windows、macOS、Android、iOS…と色々なものがありますが、これはパソコンやスマートフォンの中で動いているOS(オーエス、オペレーティングシステム)の名前です。
コンピュータ本体をオフィスに例えるなら、OSはそのオフィスを管理したりそこの設備を使って仕事をしたりする入居者のようなものです。
入居者(OS)の入っていないオフィス(コンピュータ)は空き物件ですが、逆に複数の入居者(OS)でオフィス(コンピュータ)をシェアしたり、OSの中でもう一つのOSを使うこともできます。
スマートフォンが普及し、後にタブレットが登場しましたが、このようなものを特にモバイルと呼び、それに対してラップトップとデスクトップはまとめてデスクトップ(日本では俗にパソコン)と呼ばれるようになりました。
そのデスクトップを動かすOSの中で、世界のユーザーの8割が使っているMicrosoftのWindows(ウインドウズ)は、様々なメーカーが販売するコンピュータに最初から入って(インストールされて)います。
とにかく使っている人が多いので情報量や対応ソフトの多さは魅力ですが、Windowsを狙ったマルウェア(コンピュータウイルスなどの不正で有害なソフトウェア)も数多く出回っているため、個人情報の漏洩や不正アクセスの踏み台にされるなどのリスクは圧倒的に多くなります。
Windowsを使う場合はソフトウェアのアップデート(更新)を頻繁に行い、マルウェアを検知・除去するアンチウイルスソフトを使われることを強くおすすめします。
昔(2000年代くらいまで)は音楽制作といえばMacが主流で、Windowsで音楽制作をする人はあまりいませんでしたが、現代ではどのソフトもハードも基本的にWindowsに対応しているので、Windowsの音楽制作というのも珍しいことではなくなりました。
ユーザーの残り13%が使っているとされるAppleのmacOS(マックオーエス、略してマック)は、Appleが販売するiMac、MacBookなどのコンピュータに最初からインストールされているOSです。
ユーザーが少ないとはいえmacOSを狙ったマルウェアも存在するため、Windows同様にソフトウェアのアップデートやアンチウイルスソフトの使用をおすすめします。
スマホやタブレット用のOSでは世界のユーザーの85%はAndroidを、14.7%はiOS(iPadOS)を使っていますが、どちらも音楽制作のための環境は整っています。
特にモバイルでは本体に内蔵されている加速度センサーやタッチパネルを使った表現ができることが特徴です。
気に入った音は残しておきたいものですが、そういう音に出会うのは野外だったり、録音環境を整えるのが難しい場所だったりします。
音はどんどん変化するので、環境を整えるのに時間をかけたくもありません。
そんなシチュエーションでの録音にはポータブルレコーダー(ハンディーレコーダー)が便利です。
ハンディーレコーダーについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
「何番のボタンがどのくらいの強さでどのくらいの時間押された」というような演奏データをデジタルデータ(数字)で表したものにMIDIがあります。
このデータだけでは音は出ませんが、これを音源に送ることで音を出すことも、音源の設定をコントロールすることも可能です。
そのようにMIDIを送るための機器をMIDIコントローラと呼び、手やスティックなどでパッドを叩いて使うタイプ、ミキサーにあるようなノブやフェーダーを操作するタイプ、息の強さのデータを送るタイプ、弦の振動をデータとして送るタイプ、タッチパネルを使うタイプなどがあります。
iPadなどのモバイル機器にはMIDIコントローラとしてのアプリケーションもあり、タッチパネルを使った操作をすることができます。
オーディオインターフェースと同様、電源にはセルフパワーとバスパワーがあります。
自分の部屋で音楽制作をすると決めたら、今日からあなたの部屋も「スタジオ」です。まずはそのスタジオを音響的に適切な状態(音楽を扱いやすい状態)にしてみましょう。
電源を入れるときは信号が流れる順番、電源を切るときはその逆の順番で電源をオン・オフします。
先にスピーカーの電源を入れて、その手前にある機械の電源をオン・オフしたり、途中のケーブルを抜き差ししてしまうと、最悪の場合機器が壊れてしまうことがあります。
このようなことを意識すると、モニター設計本来の音や原音に忠実な音で聴きやすくなります。
音の締まりが悪いと感じたり、余分に何かが共鳴するような音が聞こえたら、スタンドとスピーカーの間にインシュレーター(10円玉でも、消しゴムでも、専用のインシュレーターでも)を挟んでみてください。
音が固いものに当たってはね返る現象で、特に反射の回数が数えられるものを反響と呼びます。山に向かって叫ぶと音が返ってくる「やまびこ」がこれにあたります。
同じく音が固いものに当たってはね返る現象ですが、反射の回数が数えられないようなものを特に残響と呼びます。風呂場や洞窟の中で音が「響く」と感じる状態がこれにあたります。
そしてもう一つ、反響のタイミングが偶然重なり合うような場所だと、手を叩いたりすると「ビョン」というような音が重なって聞こえるようなことがあります。これをフラッターエコーと呼びますが、これが発生するスタジオだと音が濁り、正確な音の把握が難しくなる恐れがあります。
音を吸収してこれらの現象を防ぐことを吸音と呼び、それを目的に作られたものを吸音材と呼びます。吸音材だけでなく実はカーテンやじゅうたん、ソファ、ヒトの身体もある程度音を吸うので、これらの配置を変えることで部屋の音の反響・残響の具合はかなり変化します。
専用の吸音材を買うときは0〜1.0の間で表された吸音率を参考にします。0に近いほど音を吸収せず、1に近いほど多く吸収します。一般的に柔らかいものは吸音率が高く、固いものは低いです。
部屋の外から必要のない音が入ってくると、録音やモニターに支障が出ます。また、スタジオで出た大きな音が近所の人に迷惑をかけることもあります。このようなことが起こらないように音の出入りを防ぐことを遮音と呼び、その遮音の性能の高さを透過損失という数値(単位:dB)で表します。
重い壁や高い音ほどこの透過損失は高い、つまり遮音しやすいのですが、軽い壁や低い音ほど透過損失は低い、つまり遮音は難しくなります。
二重壁・二重ガラス・二重扉など、間に空気や吸音材を挟んだものであれば壁の重さを二倍にするより遮音性能は高くなります。
遮音材を買うときは「透過損失」を参考にします。数字が大きいほど遮音性が高い、ということになります(音の大きさと同じようにdB(デシベル)で表します)。
スピーカーから出る音をマイクが拾い、それがまたスピーカーから出てそれをまたマイクが拾う…というループが音となって現れることをハウリングと呼びます。この対処法としては
このあたりを気をつけていれば大抵の場合は問題ありません。
ケーブルの巻き方を工夫すれば次に使うときにもつれることもなく、ケーブル自体に負担をかけずに済みます。音楽業界で定番の8の字巻きという方法がありますので、覚えておくと便利です。
もし難しい場合やケーブル自体が重すぎる・太すぎる場合は、床に8の字を描くように置き、最後に中央で折りたたみます。
今回は少し難しいお話でしたが、わからないことやもっと聞きたいことなどがあれば、お問い合わせフォームからお気軽にお知らせください。
小山和音
こやま・かずね
音楽教育の新しいかたち作り(創造性と個性を最優先に、音楽を教えず、評価せず、楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくるオンラインの音楽教室)と、音の生まれるしくみ作り(周囲の条件に反応して音楽や音声をリアルタイムに生み出すシステム開発)。