ここでは、あえて「音楽」ではなく「音」そのものに触れます。
「音楽」は人間が勝手に作ったものなので正解はありませんが、「音」は「こうすればこうなる、それはこうだから」という決まり事があって、誰にも変えることができません。
耳をすませてみましょう。何が聞こえますか?
実は今聞こえている音も、音楽も、すべて振動です。
部屋の中で風船がはじけたとします。するとその衝撃が周りの空気を一瞬押し出して、空気の波がこのように部屋の中へ伝わっていきます。
池に石を投げてドボン!となったときに似ていますね。
空気中で聞こえる音は空気の振動だし、プールや海の中で聞こえる音は水の振動です。
筒の中に粒を入れて、音を筒の中に流すと…このように粒が振動します。
ただし振動すれば何でも聞こえるかというと、そうでもありません。ヒトの場合は1秒間に20〜20,000回ほどの振動でなければ「音」として聞こえません。
つまり音というのはただの振動というよりは、「聞こえる」振動だと言えます。
花火の音が遅れて聞こえるのは、音のスピードが光(目で見る花火)のスピードよりも遅いためです。
光は1秒で30万km(ほぼ地球から月まで)進みますが、音は1秒でたったの340m(東京タワーの高さくらい)しか進みません。
1秒で「たったの」340mと言いましたが、これは時速に直すと1224km/hで、旅客機より速いです。
この音の速さを「音速(おんそく)」といいます。音速は、音を伝える物質・温度・密度・圧力によって変わりますが(例えば水中では1秒に1500mなど)、日常的には340mくらいのイメージです。
花火を見ているとき、目で見ている花火そのものは光なので光の速さで届きますが、耳で聞いている花火の音は音の速さでしか届かないため、花火が上がったのが見えてから遅れて音が届くというわけです。
地球上ではどれだけ遠くても光は一瞬で届きますが、音はスピードが遅いので、距離が離れるほど時間がかかるようになり、目で見えたものから聞こえる音の遅れも大きくなります。
例えば花火が開いたのが見えてから音が聞こえるまで3秒かかったとしたら、あなたは花火からほぼ1km離れたところにいる(340[m/秒] x 3[秒] = 1020[m])ということになります。これが10秒だった場合は3.4km(340[m/秒] x 10[秒] = 3,400[m])になります。
花火といえば、雷も似たように音が遅れて聞こえますよね。そこまでは同じ現象(光速と音速の違い)ですが、雷ではもうひとつ面白い現象が起きています。
雷が放電する(光る)とき、雷の通り道は一瞬でとんでもなく熱くなる(2〜3万℃ [1])ので、周りの空気が一気に膨張して音速を超えてしまいます。あの雷の音は、この音速を超えるときに発生する衝撃波の音だといわれています[2]。
音の大きさは「音圧レベル」というもので表します。単位はdB(デシベル)です。
ただしこのdBという単位は音圧レベル以外にも使われるので、音圧レベルを表すときはdBの後ろにSPL(Sound Pressure Level)をつけて「95dB SPL」のように表すこともあります。
ところがこの音圧レベルは、人間が実際に感じる音の大きさとは少しだけ違います。人間の耳は、現実世界の振動を音圧レベルで感じているわけではなく、そこには次の3つの「人間らしさ」がプラスされています。
まず人間は、音の高さによって感じる音の大きさが違います(耳の周波数特性といいます)。
ちょっと難しそうなグラフが出てきましたが、落ち着いてください!
このグラフが言いたいのは「ヒトは音が低いほど鈍く、ちょっと高いところ(真ん中の一番下がっている部分)がいちばん敏感で、そしてそれより高い音は鈍い」ということです。
2つ目の人間らしさは、高い音は低い音にかき消されて聞こえにくくなること(スペクトルマスキングといいます)。
例えば地下鉄の中で話そうとすると、話し声(高い音)が地下鉄の音(低い音)にマスキングされてしまい、会話がしにくい状態になります。
3つ目は、たとえば風船が弾けた直後(コンマ数秒後)にくしゃみをすると、弾けた音にかき消されてくしゃみが聞こえなくなること(テンポラルマスキングといいます)。
これは、くしゃみをしたタイミングでは、まだ風船が弾けた音を聞いていたときの鼓膜の振動がおさまっていなかったためです。
この3つの人間らしさを考えた上で出てくるのが「ラウドネス」という表し方です。
ラウドネスは人間が感じる音の大きさにいちばん近い数値で、phon(フォン)という単位で表されます。
音楽に関わるようになると、大きい音を聴く機会が増えます。
しかし大きい音は耳にダメージを与え、時には取り返しのつかないことにもなります。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
音は「聞こえる振動」ですが、その振動が速いほど高い音に感じます。
1秒間に何回震えるかをHz(ヘルツ)という単位で表します。身近な目安がこちら。
↑高い | ↑「超音波」 | |
20,000 Hz | ヒトが(鼓膜で)聞こえるいちばん高い音 | |
17,000 Hz周辺 | モスキート音 | |
16,000 Hz周辺 | ブラウン管テレビの「キーン」という音 | |
3,000 Hz周辺 | ヒトがいちばん敏感な音の高さ | |
880 Hz | 時報の「ポーン」(最後の高い音) | |
440 Hz | 時報の「ポッ」(最初の3音) | |
20 Hz | ヒトが(鼓膜で)聞こえるいちばん低い音 | |
↓「超低周波音」 | ||
↓低い | 0 Hz | 振動なし |
低い方から見ていきましょう。まず0Hzというのは振動していない状態、つまり音も発生していない状態です。
ヒトは20Hzより遅い振動(低い音)は音として認識できないとされています。これより低い音を超低周波音と呼びます。
液晶が普及する前のブラウン管のテレビ(あの大きくて重たいテレビです)は、電源をつけると部屋の空気が変わるような感覚を覚えたり、窓を開けてテレビをつけている家の横を通ると「この家はテレビがついている」とわかった方もおられるかもしれません。あれは番組とは関係なくテレビの構造上発生する16000Hz(16kHz)周辺の音が聞こえていたためです。
コンビニの前にたむろする若者を追い払う機械から出る音は、俗にモスキート音などと呼ばれます。本来はThe Mosquito(蚊)という、17000Hz(17kHz)周辺の音を出す機械の商品名です。街中で急に頭がフラッとするような謎の不快感を感じることがあるかもしれませんが、それはもしかしたらモスキート音かもしれません。実際に東京や名古屋の商業施設で確認されています。
個人差や年齢差はありますが、一般的にヒトは20000Hz(20kHz)より速い振動(高い音)は鼓膜から聴くことができないとされています。これより高い音を超音波と呼びます。
そしてこの範囲は歳をとるほど高い方から狭くなり、次第に「こもって」聞こえるようになります。高齢の方が「耳が遠くなる」というのはこれのことです。
自分の前を救急車が通り過ぎると、音の高さが変わりますよね。
このような現象をドップラー効果と呼びますが、これは救急車で例えれば、通り過ぎるまではサイレンが実際より高めに、通り過ぎた後は低めに聞こえているという状況です。
救急車があなたの方に向かってくるとしましょう。救急車のサイレンも音なので波紋のようにあなたのもとへ向かってきますが、その音を出している救急車自体が移動しているので、波はその分だけ速いスピードで向かってきます。このように、押されて圧縮されたようなイメージです。
人間の耳は、大元が同じ音でも、押されて間隔が短くなった波は高めの音として感じます。そのため、救急車があなたの前を通り過ぎるまでは、サイレンが高めに聞こえます。そして救急車があなたの前に来た瞬間が、本来の音の高さです。
そして救急車が通り過ぎると、今度は救急車の進む方向と音の進む方向が逆なので、救急車のスピードの分だけ波が遅くなります。波が引っ張られて伸びたようなイメージです。そしてこれも人間の耳からすると、引っ張られて伸びたような波は「音が低い」と感じるので、救急車を見送っているときはサイレンが低めに聞こえます。
そして救急車がどれだけ速く走っても、救急車に乗っている人は音と一緒に移動しているので、車内に聞こえるサイレンの音は変わりません。
音の拡散のしにくさを直進性という言葉で表しますが、高い音ほど直進性が高く、低い音ほど直進性が低い(高い音ほどまっすぐ進みやすく、低い音ほどまっすぐ進みにくい)という性質があります。
上の図では、青に近いほど音が弱く、赤に近いほど音が強いことを表しています。
例えばスピーカーをこの図のように置いたとき、250Hzの低い音はスピーカーの正面だけでなく後ろにも上下にも左右にも背後にも同じように届きますが、8000Hzの高い音はスピーカー正面にだけよく届き、背後にはほとんど届いていないことがわかります。
実はヒトより低い音や高い音が聞こえる動物というのはそう珍しくありません。
下の図は、左にいくほど低い音、右にいくほど高い音として、それぞれの動物が聞こえる音の範囲(可聴域)を表しています。
上から順に
ヒトの可聴域(紫)はだいたい20Hz〜20,000Hz(20kHz)ですが、一番下のイルカには100,000Hz(100kHz)以上の音が聞こえます。
同じ高さの音でもフライパンと鍋の音や、自分の声と他人の声が違って聞こえるのは、音色(音の成分)に違いがあるからです。
この「スペクトログラム」というものを使うと、いま聞こえている音の成分をリアルタイムで見ることができます。
上のスペクトログラムは、デスクトップ版のFirefoxまたはChromeでのみ動作します。お使いのコンピュータのマイクとスピーカーを使いますので、ブラウザから許可を求められた場合はお使いのマイクとスピーカーを選択してください。正常に動作していれば、画面の右から左に向かって黒い線が流れてきます。画面内をクリックすると、その高さの音が鳴り、周波数が赤色で表示されます。
ご自分の声や身の回りの物から音を出してみてください。ここでは画面の下にあるほど低い成分、上にあるほど高い成分を表しています。成分が強いところは色が濃く、黒に近く表示されます。特にこれが声の場合、声紋とも呼ばれます。
「あー」と声を出しているとしましょう。あなたも周りの人も「これくらいの高さで声を出してるね」と、音の高さを感じ取ることができます。
しかしスペクトログラムを見ると、実際には「出しているつもりの音」以外にもいろいろな高さの「音の成分」が混ざっています。この「音の成分」が、あなたの声の特徴です。
上の3つは、同じ高さの声で「あー」「かー」「さー」と発声したときのスペクトログラムです。音の立ち上がり(左側)の成分の動き方が違うことがわかるでしょうか。
たとえば「さしすせそ」の「さ」は、ひらがなで見ると一文字ですが、音の成分としては”s”と”a”でできています。子音(”s”)を発声している時は上から下まで伸びていますが、母音(”a”)になった瞬間「スジ」が入ります。
基音(出しているつもりの音)の上に乗っている音の成分のことを「上音」と呼びますが、その中でも基本周波数(出しているつもりの音の高さ)の2倍、3倍、4倍…にあたる音を倍音と呼びます。
基音が200Hzなら倍音はその上に400Hz、600Hz、800Hz……と等間隔に並ぶので、上の例のようにスジが入ったように見えます。
男性の声はスジの間隔が狭く、女性の声は広く出てきますが、これはたとえば男性の声が100Hz、200Hz、300Hz…(100Hzごと)だとすると女性の声は200Hz、400Hz、600Hz…(200Hzごと)と、基本周波数が高いぶんスジの間隔が広くなるためです。
「あー」の状態なら音の高さがわかるのに対して”s” “t”のような子音だけの瞬間は、音の高さがわかりません。
もちろん人の声や自然界の音はきっちり2倍、3倍…と倍音が入るわけではありませんが、倍音が基本周波数の2倍、3倍…と整っているほど「ギラギラした」と感じられる声になります。
逆に倍数でない上音が多い場合「ガラガラした」声に聞こえたり、ハスキーな声に聞こえたりといろいろな特徴が感じ取れます。
「んー」と言いながら鼻をつまんでも音は出ませんね。「ん」は、鼻腔で共鳴してから鼻の穴へ抜ける音(鼻音)なので、抜け道がふさがれていると音になりません。
風邪をひいたときの「鼻声」は、鼻がつまってこの鼻音が出ていない状態です。
状況によって、どのような声が「通る声」なのかが変わってきます。自分の声が、その場所の音にない成分を多く含んでいるほど(つまりその場所の音の成分をかいくぐることができれば)「通る」、つまり届きやすい・伝わりやすい声になります。
ヒトが普段使う声の他にも、声の出し方によっては成分を大きく変えることができます。腹の底から声を出すのと、喉を締めてギラギラした声を出すのでは、成分が大きく違います。
例えば走行中の地下鉄の車内でいちばん多くて強い成分は低い音ですが、特に男性の声(基本周波数+倍音)は低いため、このような状況ではかき消されがちです。
しかし上の方(高い成分)は意外と空いているので、単純に大声を出すよりも喉を絞め気味にしてギラっとした声にする(倍音を強くする)と声が通りやすくなるので、少ない力で会話ができます。
山で「やっほー」と叫ぶと音が返ってきます(やまびこ)。これはボールを壁に当てたら跳ね返るように、音も壁(やまびこの場合は山)に当てたら跳ね返るということで、この現象のことを反響と呼びます。
街中でヘリコプターの音が聞こえて空を見上げると意外な方向から飛んできた、という現象もやまびこと同じで、ヘリコプターの音が建物や壁などで跳ね返ってあなたの耳に届き、ヘリコプターの本当の位置を錯覚していたためです。
他にも、回っている扇風機に向かって喋ると声が変わったように聞こえるのは、扇風機の羽が正面にきたときは音が反射し、羽と羽の間のときは反射しない、つまり声が「千切り」になっている状態です。
急な坂の多い住宅街によくあるコンクリートの坂道で足音をたてると「ビョンビョン」という音がしたり、部屋の中で手を叩くと「ビョン」という音が聞こえる…というように、たまたま音が返ってくるタイミングがきれいに揃うと「ビョン」というような奇妙な音として聞こえることがあり、これを鳴き龍(フラッターエコー)と呼びます。
特にこの「鳴き龍」で有名なスポットが相国寺法堂(京都)と多々羅大橋(広島〜愛媛)です。
ただし予期せずこの現象が起きてしまい、音楽やアナウンスが濁って聞こえたりすることもあるため、建築レベルからの注意が必要です。
お風呂場や洞窟の中では音が響いて聞こえますが、それはやまびこの回数が極端に多く複雑になったもので、しくみは同じです。
これは反響の中でも特に残響と呼ばれる現象で、音の反射が複雑すぎて回数が数えられません。
中でも適度な残響は人間に好まれるため、コンサートホールなどでは建物そのものの構造で音の響きかた(残響のぐあい)を調整し、お客さんに届く音の印象をコントロールしています。
実はふつうに室内で話しているときもこの「残響」は起こっています。
例えば、人はクラッカーの音を「パーン!」と表現しますが、このクラッカーをまったく反響がない状態で鳴らすと「パ」だけになります。
つまりクラッカー本来の音は「パ」で、「ーン!」の部分は反響だったということです。
誰もいないホールと満員のホールで音の響き方が違いますが、これはお客さんの身体が音を吸収するためです。
このように音を吸収することを吸音といいます。
どのような素材がいちばん音を吸いやすいかを調べるには、0.0(まったく吸音しない)〜1.0(すべて吸音)で表された「吸音率」を見ます。音の高さによって吸音される量が違います。
音は振動なので、カーテンやソファなどやわらかいものには吸収されやすく、タイルやコンクリートなど硬いものには吸収されずに跳ね返ります。リビングとお風呂場で音の響き方が違うのはこのためです。
吸音と混同しがちですが、「音が通り抜けないようにする」ことを特に遮音と呼びます。
例えば
これはどちらも「遮音」にあたります。
どのくらい遮音できるかを調べるには、「透過損失」を見ます。数字が大きいほど遮音性が高い、ということになります(音の大きさと同じようにdB(デシベル)で表します)。
反響や残響が全くない状態を地上で探すのは難しいのですが、人間が作り出した「無響室(むきょうしつ)」が最もそれに近い状態になります。
これは、外から音が入ってこないように遮音壁で囲まれ、音が反射しないように吸音材で室内の壁を覆った部屋で、音が関係する試験や測定で使われます。
ところが部屋の中に入ってドアを閉めても自分の呼吸の音、心臓の音、血が流れる音、耳鳴りの音…と、自分の中からの音ばかりが聞こえ、聴覚が生きている限り「無音」にはたどり着けないということがわかります。
高速道路の壁の外にいても、中を走っている車の音は多少聞こえてきますよね。
これは、音が障害物の裏へ回り込む性質(回折)があるためです。
音は波ですが、その波の長さ(波長)が障害物のサイズより大きいと回り込みやすい(低い音ほど回折しやすい)とされています。
ちなみにヒトに聞こえる音の波の長さ(可聴音の波長)は1.7cm 〜 17mほど。
この動画では、黄色の部分が壁で、中央にすきまがあいた状態で左側から音がくると、壁のむこうにはどのような波が届くかを表しています。
すきまからまっすぐ音が出てくるわけではないので、すきまの幅よりもずっと広い範囲に音が届いています。
夜になると、遠にあるはずの踏切の音や電車の音が聞こえる、ということはありませんか?
昼(右の図)は太陽で地面があたたまって、上空の空気よりも地上のほうが温度が高くなります。
音は、空気があたたかいほど速く、冷たいほど遅くなるという性質があるので、空気があたたかい地上のほうが速く、冷たい上空のほうが遅く、上空に向かって拡散していきます。
ところが夜(左の図)になると地面が冷えて、暖かい空気が上空へ登っていくので地上よりも上空のほうが暖かくなります。こうなると高いところの音が地上の音を追い越して、上から降り注ぐようなかたちになります。
そのため、昼よりも夜のほうが空気の振動がよく届く(音がよく聞こえる)ということになります。
モノには、いちばん震えやすい振動の速さ(固有振動数)があります。外側からそのような速さの振動を与えられると、「共鳴」を起こして振動を始め、音が出ることがあります。
この動画では、同じワイングラスを2つ近づけて並べて、片方を鳴らすと、触っていないはずのもう片方も振動するという実験をしています。
上の動画ではワイングラス同士は触れていませんが、触れていれば固有振動数でなくとも振動が伝わりやすくなります。
弦を張った楽器では、実際に振動させるのは弦だけですが、弦が張られている楽器本体の板や空洞も「弦に触れている」ため弦の振動がよく伝わり、弦の音が大きく豊かに聞こえます。
これは全部、「カルマン渦」という空気の渦が原因です。
この動画の左側の丸い部分を電線(断面)だと思ってください。そして左側から風が吹くと、空気の流れがこのようになります。
電線の上を通る空気(青緑)と下を通る空気(紫)が交互に入れ替わって渦をつくり、この渦が振動するスピードがちょうどヒトに聞こえるため、私たちはこれが「音」だと認識しています。
この原理を利用した作品も世界各地にあり、例えば滋賀県守山市にある「セトレマリーナびわ湖」の「ミュージックホール」では、建物上部から流れ込む風で建物に張られた弦が振動し、壁の内側で共鳴して音が聞こえます。
粉や粒を敷いた板に周期的な振動(音)を与えると、面白いかたちが浮かび上がります。
このような方法で音を可視化することをサイマティクスと呼びます。
動画では、板の下にスピーカーを置いて、再生する音の高さをゆっくりと上げています。
「あー」と言いながら喉に手を当ててみてください。震えていますよね。
いま手を当てた部分には声帯(せいたい)という弁のような器官があり、ふだん呼吸しているときここは開いています(下の図の14の部分です)。
声を出そうとするとここが閉じ、その隙間を空気が通ることによって振動をはじめます。
ここで生まれる振動(音)は小さくて細いですが、それが口腔(口の中)や鼻腔(鼻の奥の空洞)で共鳴して、口や鼻から出てくることで初めて「声」になります。
声の高さは声帯のサイズと声道(喉から唇まで)の長さで決まり、男性は声帯が大きく声道が長いので声が低く、女性は声道が小さく声道が短いので声が高くなります。
口から出てくる音がどのような声になるかは、舌・唇・歯の位置と動きによって決まります。
音が聞こえるとき、音はまず耳の穴を通って鼓膜を揺らし、その奥にある耳小骨(槌骨、キヌタ骨、アブミ骨の3つ)を揺らし、さらにその奥にある聴覚神経で振動が信号に変換されてから脳へ伝わることで「音」として認識されます。
この伝わり方で届く音を「気導音(きどうおん)」と呼びます。
ところが音の感じ方にはもうひとつ、鼓膜や耳小骨を経由せずにヒトの身体そのものを通って聴覚神経に直接伝わった振動が音として聞こえる「骨伝導(こつでんどう)」というものがあります。
実はこれは珍しい現象ではなく、私たちがしゃべると必ず起きる現象です。耳をふさいでしゃべると「こもった」音が聞こえますよね。
実はこれはすべて、自分の声帯で発生した声が自分の身体を伝って聴覚神経に直接届く、骨伝導の音(骨導音)です。
でも普段聞いている自分の声の中には、壁や天井にあたって跳ね返ってきた自分の声も含まれています。つまり私たちが「これが自分の声だ」と思って聞いているのは「気導音」と「骨導音」が合わさったものです。
もちろん骨導音は自分の声帯で発生した声が自分の身体を伝わって自分の聴覚神経に届くので、自分にしか聞こえません。ということは、他の人にはあなたの「気導音」しか聞こえていないということです。
録音された自分の声が「気持ち悪い」「変だ」と感じることがあるのは、自分の声の「気導音」の方だけ聞いているためです。
例えば斜め右から音が聞こえたとすると、右耳に届く音よりも左耳に届く音のほうがほんの一瞬だけ遅れる+ほんの少しだけ弱くなります。
ヒトはこの微妙な違いを一瞬で感じ取ることで「音の方向」を認識しています。
耳が1つしかなければこの違いがわからないので、耳が2つあるのは音の方向を知るためだと言えます。
ヒトは、カクテルパーティーのようにたくさんの人が同時に会話している場所であっても、聞きたい情報だけを聞く(分離して取り出す)ことができます(カクテルパーティー効果といいます)。
音声の一部を別の音声に置き換えても、置き換えられていないかのように聞こえることを「音韻修復(おんいんしゅうふく)」といいます。
例えば
このような現象は、「基本周波数がなくてもその連続倍音があれば基本周波数の高さがわかる」という人間に備わった機能です(ミッシングファンダメンタルと呼ばれます)。
ある音を聞いたときに(何かと比べずに)その音がどのくらいの高さかを認識できる感覚を絶対音感と呼びます。
絶対音感についてはこちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
色を見ると音が聞こえる現象が「色聴」、音を聴くと色が見える現象が「音視」と呼ばれています。
共感覚(ある刺激に対して、通常の感覚だけでなく別の感覚も生まれる特殊な知覚現象)のひとつです。
共感覚を持つ人の割合は4人に1人という説から2万5000〜10万人に1人という説まで幅広く、共感覚に関する研究の多くが自ら共感覚を持つと主張する人々を頼りにしていることもあり、どの程度珍しいものなのかははっきりしていません[3]。
英語にはなりますが、共感覚に関するデータから学んだり、共感覚を持つ人々と研究者を繋ぐプラットフォームであるThe Synesthesia Network(共感覚ネットワーク)というものがあり、自分が共感覚を持っているかチェックすることもできます。
日本で「音」そのものについて知ろうと思っても、理科や物理の授業のように、少し堅苦しくなってしまうことが多いように思います。
この記事ではできるだけわかりやすく解説をしたつもりですが、どうしても文章や動画を見ているだけでは実感がわかないものもあるかもしれません。
もう少し詳しく解説してほしいポイントなどあれば、こちらからお気軽にお知らせください!
[1] 河崎善一郎「身近なプラズマ -雷- 1.雷放電とは -雷放電の物理-」『プラズマ・核融合学会誌』第80巻第7号、プラズマ・核融合学会、2004年7月、 589-596頁、 doi:10.1585/jspf.80.589、 ISSN 09187928、 NAID 110003827794
[2] 阿部寿人, 松山克胤, 藤本忠博, 千葉則茂「稲妻のパターンに従った雷鳴の生成」『情報処理学会研究報告. CG,グラフィクスとCAD研究会報告』第117巻、情報処理学会、2004年11月、 67-72頁、 ISSN 09196072、 NAID 110002781715。
[3] Simner, Julia; Hubbard, Edward M., eds. (2013). “A brief history of synesthesia research”. Oxford Handbook of Synesthesia. Oxford, UK: Oxford University Press. pp. 13–17. ISBN 978-0-19-960332-9. Retrieved 25 February 2018.
小山和音
こやま・かずね
世界にひとつだけのオリジナルの楽器をデザインし、五線譜ではない楽譜やドレミではない音律をグループで話し合って作り、それらを使って音楽をゼロから創作する音楽教育プログラムを中心に、音(楽)にまつわるユニークな取り組みをしています。お仕事のご依頼やコラボレーションのご提案など、お気軽に!