音楽を始めるとき、まずは楽器を買うために楽器屋さんに行かないと…となりがちですが、ちょっと待ってください!
まずは、楽器を「自分で作る」ところから始めてみませんか。
この記事では、手作り楽器について詳しく解説します。
こちらの記事で詳しく解説していますが、「楽器を買う」ことで、お金が消えるだけでなく、あなたの個性や創造力も消えてしまいます。
そこでぜひみなさんには、楽器をまずは自分で作ってみる、という考え方をしていただけると安心です。
楽器から音を出すとき、
どのようなもの(振動体)
を
どのようなもの(トリガー)
で
どうする(奏法)
となります。
振動した物体がまた別の物体を振動させることがあり、ここではその別の物質を二次振動体と呼んでいます。
二次振動体があるときは、
どのようなもの(振動体)
を
どのようなもの(トリガー)
で
どうする(奏法)
と
(二次振動体)も振動する
となります。
振動体と二次振動体はどちらも、固体にすることもできるし、気体や液体にすることもできます。
私たちは手作り楽器というと「どうやって音を鳴らすのか」だけを考えがちですが、もう少し視野を広げてみましょう。
ちょっと難しく見えるかもしれませんが、
を表してみました。
例えば「楽器」と聞いて思い浮かべるような道具で考えてみましょう。
そのような楽器は演奏する人が完全にコントロールできますが、曲の構造は見えにくく即興性は高いといえます(右下)。
世の中で「楽器」と呼ばれているものはほとんどこれにあてはまります。
このような楽器に名前をつけるとしたら、筆者は「手動固定楽器」と呼びたくなります。
例えばビンを並べておいて、歩きながらそれを順番に叩いていくという方法もあります。
人間は歩くスピードを調整したり、立ち止まったりできるのである程度のコントロールはできますが、そこから生まれる音が「曲」だとしたらビンの配置そのものが曲の構造を表している、つまり曲の構造はわかりやすく即興性は低いといえます(右上)。
このような楽器を筆者は「タイムライン楽器」と呼んでいます。
めったに見かけませんが、例えば「雨が降ると雨粒が当たった金属の板が鳴る」や「風が吹くと弦が振動して音が出る」という楽器もあり、このようなものはサウンドスカルプチャー(音の彫刻)と呼ばれています。
これは自然の営み次第なのでコントロール性は低く、曲の構造は見えにくいといえます(左下)。
ホテルや美術館などでたまに見かけますが、人がいないのに勝手に音が出ている楽器(自動演奏楽器)もあります。
このような楽器は曲の構造がわかりやすく、やろうと思えば人間もスタート・ストップやスピードの調整はできるかもしれませんが、そもそも人間がコントロールするという前提では作られていません(左上)。
振り回すことで音が出る楽器もあります。
このように人間が本体を移動させることで音が出る楽器を筆者は「手動移動楽器」と呼んでいます。
「楽器」でなくとも、なわとびの音で「曲」を作ったら、なわとびの縄は「手動移動楽器」ということになります。
このような楽器は曲の構造がわかりにくくてコントロール性が低いといえます(中央下寄り)。
「演奏」と「再生」はどう違うと思いますか?
例えば隣の部屋から演奏が聞こえてきたとして、それが「誰かが演奏している」のか「誰かが録音した演奏を再生している」のか、どう判断しますか?
「演奏」と「再生」はまったく違うようですが、いざ説明しようとするとかなり近いもののように思えます。
筆者は、
このように呼ばれていて、上でご紹介したタイムライン楽器(仮)や手動移動楽器(仮)などは「演奏」とも「再生」ともいえる(「ここからが演奏で、ここからが再生」というようにはっきり分類することはできない)のではないかと考えています。
そう考えると、スピーカーはどうでしょうか?
スピーカーは電気を振動に変える装置ですが、理論上はスピーカーのレンジ(再生できる音の高さの範囲)内であれば、どんな音でも出すことができます。
筆者としては、「演奏」か「再生」なら「再生」のためのツールにあてはまり、上の4つの分類の中ではいちばん「自動演奏楽器」に近いように思いますが、みなさんのお考えもぜひ聞かせてください。
もちろんこの表し方にも限界はあり、あらゆる楽器を網羅できるわけではありませんが、少しでも参考にしていただければ幸いです。
ちなみによくある「金管楽器」や「鍵盤楽器」という分類は、分類するときの基準が統一されていないため、おすすめしていません。
このようにバラバラで、よくわからないことになっています。
例えるなら日本人を「北海道の人」「英語が話せる人」「男性」、さらに「北海道の人」を「北海道が好きな人(北海道在住かどうかは関係ない)」と「それ以外の人」に分けているようなもの。
これだと「打楽器」に分類されているので「打つ」奏法をしないといけないような気がしてしまうし、管のかたちをしていないものは何楽器に分類すればいいかわからない、ピアノは「鍵盤楽器」でもあるし「弦楽器」でもあるし「打楽器」でもある…と、あまり分類の意味がなく、分類することでかえって弊害が出ているように思えます。
筆者はこの記事でもワークショップでも「ザックス=ホルンボステル分類」という分類法をベースに多少アレンジを加えていますが、みなさんにはあまり分類にはとらわれずに自由な発想で楽器を作っていただきたいため、「面の楽器」などあえて抽象的な名前をつけています。
音を出すには、物体(物質)を「振動」させて、その振動が人間に聞こえればOKです。
振動しない物質というのは身近にはないので、身の回りのあらゆるものから音は出る、と考えていただいて大丈夫です。
どうやって音を鳴らしたいかを決めたら、まずは家の中で、鳴らしたい音が出るものを集めてみましょう。
筆者がオランダで開催した「Invent Music」(ワークショップ「音楽を創る」の英語版)には0〜80代まで幅広い年代の方が参加し、ワークショップ後の懇親会(会食)中に皿やナイフ、フォーク、グラスなど食卓に並んでいる道具だけで演奏を楽しんでいました。70〜80代の年配の方が食事中に、というのは日本ではなかなか見られない光景です。
私たちが「テーブルマナー」の発祥の地としてイメージするヨーロッパではこんな一面が見られる一方で、おそらく日本では「テーブルマナー」が極端なかたちで解釈され、「食器を鳴らすなんてマナーが悪い」と教育された方も多いのではないかと思います。
食事中におとなしくしているのであれば、食事以外の時間では食器から音を出すことに罪悪感を感じる必要はないのでは、と筆者は思います。
家の中に鳴らしたい音が見当たらなければ、外を散歩しながら楽器の素材を集めてみるのも楽しいです。
外に出ると忘れがちですが、自分がどのように音を鳴らしたいかを常に意識しておきましょう。
固体は、振動体が重いほど低い音が、軽いほど高い音が出ます。
ひもなどで上から吊るしたり、なるべく触れる面積が少なくやわらかい素材の上に置いたりすると、振動が長続きします。
ここでは主に面(身の回りにあるほとんどの物体がこれで、体鳴楽器とも)について考えます。
面の楽器はいろいろな鳴らし方があるため、奏法(音の出し方)から決めるとわかりやすいかもしれません。
ワークショップで「音を出してみて」というと必ず見かける「叩く」は、いちばんシンプルな音の出し方です。
例えば手で箱を叩くときは、箱が振動体、手がトリガーだと捉えられます。
同じ箱でも、叩く場所によって音が違うし、叩き方(当てた手をそのまま置いておくのか、パシッと鋭く叩くのか)でも音が変わってきます。
他にも、例えばトリガーを手ではなく菜箸にしてみるとまた違う音が出るし、音を出しているときの感覚が違うはずです。
トリガーが棒状のもの(箸やスティックなど)の場合、コントロールのしかたによっては一回振動体に当たって跳ね返ってもう一回当たる、という奏法もできます。
「振る」という動作も、動かすことで「何かがどこかに当たって音が出る」というしくみは同じです。
振ると音が出るものといえば、キッチンにたくさんありますね。
例えば塩とホールの(挽かれていない)コショウを比べてみるとわかりますが、調味料の中でも粒が大きいと音も大きく(インパクトが強く)なります。
コショウの容器を振るときは、容器が振動体、コショウの粒がトリガーだと捉えられます。
振るという動作はもちろん手でもできますが、例えば足で踏むと上下する道具に取り付ければ、空いた手で他の楽器を操ることができます。
もちろんスポンジでまな板を洗うのも「こする」ですが、コショウの容器を振らずにゆっくり傾けても「こする」と同じことになります。
手で持って振る楽器は、楽器そのものが大きいと振りにくいですが、傾ける楽器は多少大きくても大丈夫そうですね。
ちなみに、ワイングラスを洗っているとき音が出た経験はありませんか?
水に濡れた手でワイングラスの縁をぐるぐる周るようにこすると、うまい具合に指とグラスの振動がかみ合ったときに「プォ〜ン」という音が出ます。
二枚の面を並べて、その間に空気を送って振動させるしくみを「リード」と呼びます。
実は私たち、身体に2種類のリードがついています。
唇の間に空気を通すと「ブー」と鳴りますよね。ほかにも声を出すとき、喉の奥にある「声帯」という器官がキュッと締まって間を空気が通るのですが、空気が通るときに声帯が振動します。
リードの近くの空気も振動しているので空気の楽器でもあるのですが、振動体はリードなのでここでは固体に分類しています。
唇で「ブー」と音を出しながらラップの芯に当てると、それなりに存在感のある音がするはずです。
ここでは唇が振動体、ラップの芯の中の空気が二次振動体です。
唇で音を出すかわりに似たようなしくみを用意すれば、自分でリードを作ることもできます。
同じくラップの芯を使うとしたらリードが振動体、ラップの芯の中の空気が二次振動体です。
面を限りなく薄くして張ると「膜」の楽器になります(膜鳴楽器)。
膜が厚いほど音が低く、薄いほど高くなり、ゆるく張るほど低く、きつく張るほど高くなります。
膜を一定の張力で本体に固定します。
張る強さを調節できないので、鳴る音の高さを気にしなくてよい楽器に向いています。
膜を本体に固定し、張る強さで音の高さを調整できるようになります。
ゆるく張るほど音が低く、きつく張るほど高くなります。
こちらも膜を本体に固定し、張る強さで音の高さを調整できるようになります。
こちらはひもやワイヤーの張力ではなくボルト(テンションボルト)の締め具合で音の高さ(膜の張力)を調整します。
ひも・ワイヤーと同じく、ゆるく張るほど音が低く、きつく張るほど高くなります。
いちばん身近で手に入りやすい膜は、風船かもしれません。
風船を半分に切って空き缶に輪ゴムで留めれば、できあがりです。
これはボルトやワイヤーなどのように風船を張る強さを調節するしくみがないので音の高さは変わりませんが、風船を張るときの張り具合を変えてみると違いがわかります。
上の例では空き缶を使ったので胴体の材質は金属になりますが、やはり叩いたときに出る音もどこか金属感があります。
例えばこの胴体をプラスチックに換えると、また違ったニュアンスの音が出るようになります。
弦(弦鳴楽器)は、太いものほど音が低く、細いほど音が高く、重いほど音が低く、軽いほど音が高くなります。
膜と弦を組み合わせる(膜に弦を張る)ことも可能です。
弦を巻き取るペグや糸巻きを追加すると音の高さ(弦の張力)が調整可能になります。
きつく張るほど音は高くなります。
弦を下から突っ張る駒・ブリッジや、弦を上から押さえたときに駒・ブリッジの役目をするフレットを追加すると音の高さ(鳴らす弦の長さ)がコントロール可能になります。
鳴らす弦を短くするほど音は高くなります。
サウンドホールやスリットと呼ばれる穴を追加することで箱内部の振動した空気が外に出て、より豊かな音が得られます。
弦を叩く道具(ハンマー)や手で弦を叩いて鳴らします。
弦をはじく道具(ピック)や指で弦をはじいて鳴らします。
弦をこする道具(弓)や手で弦をこすって鳴らします。
摩擦が大きいほど弦の振動も大きくなります。
物体が振動するときには様々な「倍音」が含まれていることがあります。
弦が振動するときも同様に数多くの倍音が含まれていますが、ある場所で弦に軽く触れながら弦を振動させると、特定の倍音だけが浮き立って聞こえます。下の図を見てみましょう。
波の両端が弦の両端だと考えてください。
例えば弦をそのまま振動させたときの音が100Hzだとしたら、1/2(弦の長さの1/2)の部分に軽く触れながら弦を振動させると200Hz、1/3と2/3の部分では300Hz、1/4と3/4の部分では400Hz、1/5・2/5・3/5・4/5では500Hz…といった高さの音が鳴ります。
このように音を鳴らすと、弦を直接振動させた時よりは純音(倍音などの上音が弱く、丸い音)に近くなります。
このポイントを直接ハンマーなどで叩いても同じ効果が得られます。
いちばん身近で手に入りやすい弦は輪ゴムかもしれません。
空き箱に輪ゴムをかけるだけで、すぐにできあがります。
輪ゴムを箸で持ち上げると、指で押さえる場所によって音の高さを変えることができるようになります。
箸が「しくみを決める」のところでご紹介した「駒」や「ブリッジ」として機能しているということですね。
弦を張っている胴体や箱の材質によっても、音が変わります。
振動する気体・液体の体積が大きいほど音は低く、小さいほど音は高く、そしてかかる圧力が低いほど音は低く、高いほど音も高くなります。
気体や液体は容器の材質よりも、その容器に追加するしくみによって音が変わります。
直線の容器(管)では長すぎるとき、途中で曲げることでコンパクトにまとめることができます。管を曲げても、出る音は変わりません。
管に一回り小さい管をはめ、スライドする部分を作ると音の高さ(振動する気体・液体の体積)を無段階で調節できるようになります。スライドを短くするほど音は高くなります。
ピストンを押すと長い容器(迂回管)に切り替わって音が低くなるしくみをバルブと呼びます。この迂回管の長さや太さを変えて複数作ることで、複数の高さの音が出るようになります。
容器が管の場合、管の片端を常に開いておき、もう片端を開閉できるようなしくみにすると、自然倍音列を下から順に出すことができるようになります。
例えば片端を閉じたときに100Hzの音が出るとすると、その端を開けば2倍の200Hzの音が出ます。
気体にかける圧力を増やすと音は高くなるので、もう一度端を閉じて強く吹くと3倍の300Hz、その状態で端を開けば4倍の400Hz…という具合に、自然倍音列に沿って音が高くなっていきます。
容器が管の場合で、管に穴(トーンホール)を開けると、音の高さ(振動する気体や液体の体積)をコントロールできるようになります。
管に穴を一直線に並べて開けた場合、すべて閉じた状態でいちばん低く、すべて開いた状態でいちばん高い音が出ます。
一般的に「笛」と呼ばれているものは、口から送り込んだ空気が鋭い縁(エッジ)にあたり、エッジの表と裏に交互に流れるときに起こる振動(カルマン渦)が振動体になっています。
上でも「吹く楽器」をご紹介しましたが、あちらは唇やリードという固体を振動させるところから始まるのに対して、こちらは空気そのものが振動するところから始まっています。
難しそうに聞こえますが、作るのは意外と簡単!筒とコルクだけで作れます。
これで完成です!
部品とコルクのあいだを通った空気がエッジ(丸の部分)にあたることで音が出るしくみなので、エッジがふさがっていると音が出ません。
気体や液体の容器の材質は音に大きな影響を与えないという見方もありますが、みなさんはどのように感じるでしょうか?ぜひいろいろな素材で実験してみてください。
箱型や壷型、管では円錐型や円筒型などが考えられます。
円錐型は丸く、円筒型は鋭い音という見方もあります。
特に花びらのような形をした部分をベルやアサガオとも呼びます。
楽器をどのように持つか、あるいは設置するかを考えてみましょう。
楽器を床や地面から適切な高さまで持ち上げる場合はエンドピンやスタンド、演奏者に固定する場合はストラップ、肩やあごを使って固定する場合はチンレストやショルダーレストと呼ばれる市販の部品を使うこともできます。
各セクションでご紹介している楽器は、「楽器づくりって簡単」と思っていただけるように考えた一例ですので、ぜひご自身でいろいろと模索してみてください。
わからないこと、もっと聞きたいことなどがありましたらお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。
小山和音
こやま・かずね
世界にひとつだけのオリジナルの楽器をデザインし、五線譜ではない楽譜やドレミではない音律をグループで話し合って作り、それらを使って音楽をゼロから創作する音楽教育プログラムを中心に、音(楽)にまつわるユニークな取り組みをしています。お仕事のご依頼やコラボレーションのご提案など、お気軽に!