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音楽をやるには「楽器」が必要か?

2016年4月14日

音楽を始めたい(始めさせたい)ので、まずは楽器を買わないと、と思っていらっしゃる方へ。まず一度落ち着いて考えてみましょう。「楽器」とは何でしょうか?

おそらくほとんどの方は「音楽を演奏するための道具」と考えておられると思います。

私も同じ考えなので、そういう前提で少し話を進めてみましょう。

「音楽を演奏するための道具」ということは、別の言い方をすれば、それを使うことでただの「音」が「音楽」になるのであれば、それは「楽器」と呼べますね。

紙くず、コップ、テーブル、鍋、自転車、洗濯機…もしこのようなものを使って「音楽」を生み出すことができたら、それは立派な「楽器」ですね。

つまり私たちが「楽器」と呼べるものはすでに身の回りにあふれているし、それらを組み合わせることで「楽器」を作ることは誰にでもできることなのです。

ピアノやギターなど、世の中には「楽器」と呼ばれるものがたくさんあります。しかしその「楽器」は、機能的にはただの「音を出す物体」です。

つまり極端な話、「楽器」と「楽器ではない物」は同じということになります。唯一違いがあるとすれば、それは「音楽を演奏するために作られたもの」が楽器と呼ばれ、そうでないものは楽器とは呼ばれていない、というところではないでしょうか。

楽器というものを考え直せる3つの例え

『そもそも「音楽」とは何か?』でも書いているとおり、音と音楽の境界線が人によって違うように、楽器と楽器ではないものの境界線も人それぞれです。しかし次の動画のように、捉え方と組み合わせ方次第では日常生活の音がその境界線を超えて「音楽」になってしまうということもあり得ます。

1. Beats of Boredom

ここでは膝を叩く音、電気のスイッチの音、ジッパーの音、CDトレイの開閉音、プリンターの音、ジャケットをこする音、掃除機の音、トースターの音、ワインの栓を開ける音、携帯電話のバイブレーター、スプレーの音など実にたくさんの音が使われていますが、どれも日常生活で聞こえてくる音です。

最後に出てきた女性に「What are you doing?(何やってるの?)」と聞かれて「Nothing(何も)」と答えるところが個人的にお気に入りです。なぜならここで鳴っている音はすべて日常生活の音の組み合わせなので、その音が「規則性を持った」こと以外はなんら日常生活と変わりがないからです。規則性を持った音は、そうでない音に比べて人間の中では特別であるということをこのシーンは物語っていると思います。

2. Gravity

こちらはバスケットボールやサッカーボール、テニスボール、卓球の球などをバウンドさせる音などを使っています。

3. Music From A Dry Cleaner

他にもクリーニング店にある機械音、パイプの音、ハンガーの音、洗濯機の音など。

もしあなたがこれらを「音楽」だと感じるならば、「音楽」をやるためには必ずしも「楽器として作られたもの」を手に入れる必要はないと言えます。

例えばこのようなバケツや菜箸は、叩いて鳴らす楽器+それを叩くためのスティックだと考えることもできます。

自分で鳴らす音だけでなく、音さんぽで扱っているような、すでにそこにある音も素材として使うことができます。普段からそのような音に耳をすますことができるようになれば、それは「感受性が豊かになった」と言えるのではないでしょうか。

コンピュータを使う

上の動画はどれも鳴っている音を録音(録画)してコンピュータで編集していますが、そのために高価な機材は必要なく、お持ちのスマートフォンとパソコンだけでも作れてしまいます。スマートフォンやパソコンが身近になった時代だからこそできる表現のひとつと言えるでしょう。

また、コンピュータを単に録音・編集の道具として使うだけでなく、コンピュータそのものを楽器にしてしまう(プログラミングをする)ということもできます。

コンピュータから音を出すとき、その音が出てくるのはスピーカーですが、そのスピーカーが出せる音の範囲であればどのような音でも(まだ人類が聞いたことのないような音も)出すことができます。

コンピュータから出る音って…
コンピュータから音を出すというと「電子音」のようなものを想像されるかもしれませんが、現代では録音した音声の再生はもちろん、実際に現実世界で鳴っている音と区別がつかないような音をコンピュータの中で作り出すこともできるようになっています。

実際にこういった技術は音楽業界でもよく使われており、みなさんが普段聞いている音楽の中に使われている音は、録音した楽器の音ではなくコンピュータで作り出した音かもしれません。

コンピュータを買うということは楽器を買うということでもある、といってもよいでしょう。

まとめ

ここまで色々聞いてみたけれど、やっぱりピアノやギターなどの「ちゃんとした楽器」の方がいい、という方は楽器屋さんを見てみるのもよいでしょう。ただしそのような楽器を選ぶことで、一定の創造性は犠牲にしてしまうという覚悟は必要です。

世の中の「楽器」は、このようなシンプルなものからどんどん派生していったひとつの形だということを覚えていれば、結局楽器を買うことになっても、その先「練習」していくにあたっての心の持ちようがだいぶ違うはずです。

どの楽器屋さんに行っても、売られている楽器は同じです。ステージに立てばドラムやピアノが、楽器店に行けばギターやヴァイオリンがあり、商品として売られる曲に使われるのもありふれた楽器だけ。

これでは、まるでこれが音楽のすべてであって、これができないのなら音楽をやる資格はない、と言われているようです。

しかし上の動画を見ていただいてわかる通り、これはいつのまにか従ってしまっているルールであり、音楽との関わり方のひとつでしかありません。それに従わなくても音楽は作れます

ビジネスとして成り立っている音楽業界では、人に求められる製品が作られています。それは、「音楽をやるには楽器を買わなければいけない」という私たちの思い込みのせいかもしれません。

そうやって作られた楽器を買うということは、世界に何百万、何千万人といる同じ楽器の奏者の一人となり、その楽器に依存するということでもあります。それは人間の表現の可能性をあえてひとつの枠の中に閉じ込めているということになるのですが、「楽器を買う」という行動がすでに当たり前なので、ほとんどの人はこれを不思議に思いません。

せっかく音楽を始めたいと思っても、特に日本や欧米ではピアノやギターやドラムというような「有名な楽器」の中から選ばないといけないと思い込んでしまい、その楽器が合わなかったり、自分でつくる楽しさを感じられずに挫折してしまう。

これは納豆が口に合わないからといってアジアの料理をすべて諦めるようなもので、非常にもったいないことです。そのような有名な楽器を使っている人は本当にたくさんいますが、楽器全体で見たときには、他に数えきれないほど選択肢があるということをどうか忘れないでください。

ニュートラル音楽院ではこのようにまずいろいろなことを考えて、「楽器」から自分の手で作ることで、自分の中にある「音楽」を外に出すお手伝いをしていきます。

「楽器を作る」というと難しそうに聞こえますが、そもそも楽器とは何かを一度考えてみることで、音楽は実はこんなに身近なところにもある、ということを感じていただけると思います。

皆さんの中で何かヒントになれば幸いです。

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筆者プロフィール
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小山和音
こやま・かずね

音楽家。楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくる音楽教室+ワークショップ(音楽教育の新しいかたちを作る) / 音楽や音声に特化したインタラクティブシステム(音の生まれるしくみを作る) / 耳をすませて外を歩くフィールドワークなど。お仕事のご依頼はお問い合わせフォームから。

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