この記事では、主に教育機関や教室の先生方が小山和音に代わってワークショップ「音楽を創る」を開催する、あるいはその内容を授業に取り入れる際の方法をまとめています。
「音楽を創る」は独特のコツが必要なワークショップですが、小山和音でないと開催できないものではなく、むしろ様々な教育機関(特に日本の学校や教室)に選択肢のひとつとして広まってほしいという願いがあり、こうしてワークショップの進め方を公開しています。
私たち人間は、生まれながら持っている音楽の感覚がありますが、残念ながら現代の日本的な音楽との触れ合い方では、その感覚に気づかないまま生涯を終えてしまいます。
ワークショップ「音楽を創る」はそのように日本の音楽で「当たり前」とされてきたことの一つ一つに対して「なぜ」を考え、自分の音楽の感覚に出会うために本当に必要なことだけを抜き出し、自分の手で音楽を創り出すための、世界的にも稀なほど徹底したコンセプトを軸とした試みです。
自分の本当の音楽に出会うのは簡単ではありませんが、3つの原則を守っていただければ、ワークショップを通して参加者の表現を引き出すことに大きく貢献します。
このワークショップでは、あなたは「先生」ではなく「進行役」や「伴走者」となり、参加者の表現を可能な限り新鮮かつ忠実に引き出す役割を担います。
そのため、このワークショップ内で参加者に提示する画像や音声、動画などはすべて自己表現を促すための「参考情報」であり、「正解」や「お手本」ではありません。
進行役(あなた)は、参加者からのどのようなアウトプットに対しても「肯定・否定をしないこと」「評価しないこと」を徹底してください。参加者の考え方から柔軟性を奪わないようにするためです。
参加者の考え方を聞いたり、作ったものを提示されたときは「なるほど」などニュートラルな言葉遣いを心がけます。
進行役のささいな反応であってもそこにバイアスが生まれてしまえば、参加者から創造性を奪うことになります。
ギターやタンバリンなどの「楽器」として作られたものや五線譜などの「楽譜」、既存の音楽システムによって作られた「曲」など、音楽を前提として作られたものは潜在的に「弾ける/弾けない」という分断や「上手い/下手」という優劣の差を生むため、ワークショップ内に持ち込まないようにします。
むしろ音楽を前提として作られたものを一切使わずに音楽が作れたとなれば、それは参加者にとって大きな収穫となるでしょう。
まず、1つまたはいくつかのグループに分かれて座り、グループごとに
を用意しておきます。
可能であれば、このページにある画像や音声、動画などを参加者に見せられるようにしておきます。
また、この記事では大人向けの内容と表現を前提としていますが、参加者の年齢や理解度に合わせて伝え方や内容を調整してください。
楽器づくりの前の重要なステップとして、まず
を認識させるための時間をとります。
まずは問いかけから始めます。
「音楽」という概念を知らない人に「音楽って何?」と聞かれたら何と答えるかを問いかけます。
参加者の考えを聞く前に、
以上のことから、この問いに対する正解はない(自分の意見に自信を持ってよい)ことを明示しておきます。
同じように「演奏」とは何かを問いかけます。
同じように「楽器」とは何かを問いかけます。
作った楽器を使って何か作品を作る可能性がある場合、「曲」についても同じように問いかけておくことをおすすめします。
まず「音を出してください」、その後に「音楽っぽく音を出してください」と投げかけ、今の2つにどんな違いがあったのかを尋ねます。
この捉え方も人によって違うため、すべての答えをニュートラルに受け止め、肯定や否定もせず、評価もしません。
「音」とも「音楽」ともとれる微妙な音声を流し、それぞれ「音」「音楽」どちらだと思ったかを尋ねます。
これもどちらかが正解というものではないため、自由な発想を促します(どちらにも手を挙げるケースもあります)。
音声が用意できない場合は、下の音声をお使いください。
ここでいったん整理として、「音」はあなたの中で初めて「音楽」に変わるのだということを伝えます。
では何が「音」を「音楽」に変えるのか、これは人によって違うので今から提示するものはあくまでも一例にすぎないという前置きをした上で、2つの要素について話します。
(これ以上噛み砕いた表現が思いつかないため、もし何かいい言い換えができましたらお任せいたします)
まずは鳥の鳴き声を流します。
その後、規則的に編集した鳥の鳴き声を流します。
編集されていない(秩序の弱い/ない)鳥の声と比べて、編集された(秩序の強い/ある)鳥の声の方が、少しでも「音」から「音楽」に近づいたとしたら、その参加者は「秩序」を意識することで「音楽」を演奏できる可能性があるので、それを意識して楽器を創るよう伝えます。
さらに参考情報として動画を流します。
どちらも秩序が弱い/ない状態ではただの物音かもしれませんが、秩序を持たせることによって「音楽」だと感じる人が増えていると想像できます。
ラジオの砂嵐(チャンネルが合っていないときの「ザー」)や波の音というのは音の高さを感じにくい一方、鳥の声や車のクラクションは感じやすいといえます。
この「高さを感じやすい音」がある方が「音」よりも「音楽」に近いなら、その参加者は「音の高さを感じられるもの」を意識することで「音楽」を演奏できる可能性があるので、それを意識して楽器を創るよう伝えます。
もちろんこの他にも「音」を「音楽」にする要素がある可能性があります。
ただし全員に共通するものとは限らないため、あったとしても全員共通のゴールとはしないことをおすすめします(もちろんその要素に納得する他の参加者がいれば、この限りではありません)。
この要素に納得する参加者には、それを意識して楽器を創るよう伝えます。
ここからは自分の作りたい楽器のイメージを膨らませるセクションに入ります。
まず、楽器といってもいくつかのタイプがあり、どの方向を目指すかは自由に選んでよいことを伝えます(この分類および名称は私が提唱しているものです)。
を表しています。
世の中で「楽器」と呼ばれているものはほとんどこれにあてはまりますが、そのような楽器は演奏する人が完全にコントロールできる一方で、曲の構造は見えにくく即興性は高いといえます。
この手動固定楽器の場合、楽器をどのように固定するかを考えておきます。
と呼ばれる市販の部品を使うこともできます。
例えばビンを並べておいて、歩きながらそれを順番に叩いていくという方法もあります。
人間は歩くスピードを調整したり、立ち止まったりできるのである程度のコントロールはできますが、そこから生まれる音が「曲」だとしたらビンの配置そのものが曲の構造を表している、つまり曲の構造はわかりやすく即興性は低いといえます(右上)。
めったに見かけませんが、例えば「雨が降ると雨粒が当たった金属の板が鳴る」や「風が吹くと弦が振動して音が出る」という楽器もあり、このようなものはサウンドスカルプチャー(音の彫刻)と呼ばれています。
これは自然の営み次第なのでコントロール性は低く、曲の構造は見えにくいといえます(左下)。
ホテルや美術館などでたまに見かけますが、人がいないのに勝手に音が出ている楽器(自動演奏楽器)もあります。
このような楽器は曲の構造がわかりやすく、やろうと思えば人間もスタート・ストップやスピードの調整はできるかもしれませんが、そもそも人間がコントロールするという前提では作られていません(左上)。
人間が本体を移動させること(振り回すなど)で音が出る楽器楽器もあります。
「楽器」でなくとも、なわとびの音で「曲」を作ったら、なわとびの縄は「手動移動楽器」ということになります。
このような楽器は曲の構造がわかりにくくてコントロール性が低いといえます(中央下寄り)。
楽器から音を出すとき、
どのようなもの(振動体)
を
どのようなもの(トリガー)
で
どうする(奏法)
となります。
振動した物体がまた別の物体を振動させることがあり、ここではその別の物質を二次振動体と呼んでいます。
二次振動体があるときは、
どのようなもの(振動体)
を
どのようなもの(トリガー)
で
どうする(奏法)
と
(二次振動体)も振動する
となります。
振動体と二次振動体はどちらも、固体にすることもできるし、気体や液体にすることもできます。
固体は、振動体が重いほど低い音が、軽いほど高い音が出ます。
ひもなどで上から吊るしたり、なるべく触れる面積が少なくやわらかい素材の上に置いたりすると、振動が長続きします。
ここでは主に面(身の回りにあるほとんどの物体がこれで、体鳴楽器とも)について考えます。
面の楽器はいろいろな鳴らし方があるため、奏法(音の出し方)から決めるとわかりやすいかもしれません。
ワークショップで「音を出してみて」というと必ず見かける「叩く」は、いちばんシンプルな音の出し方です。
例えば手で箱を叩くときは、箱が振動体、手がトリガーだと捉えられます。
同じ箱でも、叩く場所によって音が違うし、叩き方(当てた手をそのまま置いておくのか、パシッと鋭く叩くのか)でも音が変わってきます。
他にも、例えばトリガーを手ではなく菜箸にしてみるとまた違う音が出るし、音を出しているときの感覚が違うはずです。
トリガーが棒状のもの(箸やスティックなど)の場合、コントロールのしかたによっては一回振動体に当たって跳ね返ってもう一回当たる、という奏法もできます。
「振る」という動作も、動かすことで「何かがどこかに当たって音が出る」というしくみは同じです。
例えば塩とホールの(挽かれていない)コショウを比べてみるとわかりますが、調味料の中でも粒が大きいと音も大きく(インパクトが強く)なります。
コショウの容器を振るときは、容器が振動体、コショウの粒がトリガーだと捉えられます。
振るという動作はもちろん手でもできますが、例えば足で踏むと上下する道具に取り付ければ、空いた手で他の楽器を操ることができます。
もちろんスポンジでまな板を洗うのも「こする」ですが、コショウの容器を振らずにゆっくり傾けても「こする」と同じことになります。
手で持って振る楽器は、楽器そのものが大きいと振りにくいですが、傾ける楽器は多少大きくても問題ありません。
また、水に濡れた手でワイングラスの縁をぐるぐる周るようにこすると、うまい具合に指とグラスの振動がかみ合ったときに「プォ〜ン」という音が出ますが、これも「こする」に分類されます。
二枚の面を並べて、その間に空気を送って振動させるしくみを「リード」と呼びます。ヒトも2種類のリードを持っています。
リードの近くの空気も振動しているため空気の楽器ともいえますが、振動体はリードなのでここでは固体に分類しています。
唇で「ブー」と音を出しながらラップの芯に当てると、それなりに存在感のある音がするはずです。
ここでは唇が振動体、ラップの芯の中の空気が二次振動体です。
唇で音を出すかわりに似たようなしくみを用意すれば、自分でリードを作ることもできます。
同じくラップの芯を使うとしたらリードが振動体、ラップの芯の中の空気が二次振動体です。
面を限りなく薄くして張ると「膜」の楽器になります(膜鳴楽器)。
膜が厚いほど音が低く、薄いほど高くなり、ゆるく張るほど低く、きつく張るほど高くなります。
膜を一定の張力で本体に固定します。
張る強さを調節できないので、鳴る音の高さを気にしなくてよい楽器に向いています。
膜を本体に固定し、張る強さで音の高さを調整できるようになります。
ゆるく張るほど音が低く、きつく張るほど高くなります。
こちらも膜を本体に固定し、張る強さで音の高さを調整できるようになります。
こちらはひもやワイヤーの張力ではなくボルト(テンションボルト)の締め具合で音の高さ(膜の張力)を調整します。
ひも・ワイヤーと同じく、ゆるく張るほど音が低く、きつく張るほど高くなります。
いちばん身近で手に入りやすい膜は、風船かもしれません。
風船を半分に切って空き缶に輪ゴムで留めれば、できあがりです。
これはボルトやワイヤーなどのように風船を張る強さを調節するしくみがないので音の高さは変わりませんが、風船を張るときの張り具合を変えてみると違いがわかります。
上の例では空き缶を使ったので胴体の材質は金属になりますが、やはり叩いたときに出る音もどこか金属感があります。
例えばこの胴体をプラスチックに換えると、また違ったニュアンスの音が出るようになります。
弦(弦鳴楽器)は、太いものほど音が低く、細いほど音が高く、重いほど音が低く、軽いほど音が高くなります。
膜と弦を組み合わせる(膜に弦を張る)ことも可能です。
弦を巻き取るペグや糸巻きを追加すると音の高さ(弦の張力)が調整可能になります。
きつく張るほど音は高くなります。
弦を下から突っ張る駒・ブリッジや、弦を上から押さえたときに駒・ブリッジの役目をするフレットを追加すると音の高さ(鳴らす弦の長さ)がコントロール可能になります。
鳴らす弦を短くするほど音は高くなります。
サウンドホールやスリットと呼ばれる穴を追加することで箱内部の振動した空気が外に出て、より豊かな音が得られます。
弦を叩く道具(ハンマー)や手などで弦を叩いて鳴らします。
弦をはじく道具(ピック)や指で弦をはじいて鳴らします。
弦をこする道具(弓)や手で弦をこすって鳴らします。
摩擦が大きいほど弦の振動も大きくなります。
物体が振動するときには様々な「倍音」が含まれていることがあります。
弦が振動するときも同様に数多くの倍音が含まれていますが、ある場所で弦に軽く触れながら弦を振動させると、特定の倍音だけが浮き立って聞こえます。
波の両端が弦の両端だと考えて、例えば弦をそのまま振動させたときの音が100Hzだとしたら、
といった高さの音が鳴ります。
このように音を鳴らすと、弦を直接振動させた時よりは純音(倍音などの上音が弱く、丸い音)に近くなります。
このポイントを直接ハンマーなどで叩いても同じ効果が得られます。
いちばん身近で手に入りやすい弦は輪ゴムかもしれません。
空き箱に輪ゴムをかけるだけで、すぐにできあがります。
輪ゴムを箸で持ち上げると、指で押さえる場所によって音の高さを変えることができるようになります。
箸が「しくみを決める」のところでご紹介した「駒」や「ブリッジ」として機能しているということです。
弦を張っている胴体や箱の材質によっても、音が変わります。
振動する気体・液体の体積が大きいほど音は低く、小さいほど音は高く、そしてかかる圧力が低いほど音は低く、高いほど音も高くなります。
気体や液体は容器の材質よりも、その容器に追加するしくみによって音が変わります。
直線の容器(管)では長すぎるとき、途中で曲げることでコンパクトにまとめることができます。管を曲げても、出る音は変わりません。
管に一回り小さい管をはめ、スライドする部分を作ると音の高さ(振動する気体・液体の体積)を無段階で調節できるようになります。スライドを短くするほど音は高くなります。
ピストンを押すと長い容器(迂回管)に切り替わって音が低くなるしくみをバルブと呼びます。この迂回管の長さや太さを変えて複数作ることで、複数の高さの音が出るようになります。
容器が管の場合、管の片端を常に開いておき、もう片端を開閉できるようなしくみにすると、自然倍音列を下から順に出すことができるようになります。
例えば片端を閉じたときに100Hzの音が出るとすると、その端を開けば2倍の200Hzの音が出ます。
気体にかける圧力を増やすと音は高くなるので、もう一度端を閉じて強く吹くと3倍の300Hz、その状態で端を開けば4倍の400Hz…という具合に、自然倍音列に沿って音が高くなっていきます。
容器が管の場合で、管に穴(トーンホール)を開けると、音の高さ(振動する気体や液体の体積)をコントロールできるようになります。
管に穴を一直線に並べて開けた場合、すべて閉じた状態でいちばん低く、すべて開いた状態でいちばん高い音が出ます。
一般的に「笛」と呼ばれているものは、口から送り込んだ空気が鋭い縁(エッジ)にあたり、エッジの表と裏に交互に流れるときに起こる振動(カルマン渦)が振動体になっています。
上でも「吹く楽器」をご紹介しましたが、あちらは唇やリードという固体を振動させるところから始まるのに対して、こちらは空気そのものが振動するところから始まっています。
身近な物だと、筒とコルクだけで作ることができます。
1. 筒の端に切れ込みを入れ、横にぐるっと一周します
2. できた部品と同じ長さにコルクを切ります
3. 筒にさきほどと同じ切れ込みを入れて、コルクをはめます
4. さきほどできた部品を上からはめます
5. 部品とコルクのあいだのすきまを吹くと音が出ます
これで完成です。
部品とコルクのあいだを通った空気がエッジ(丸の部分)にあたることで音が出るしくみなので、エッジがふさがっていると音が出ません。
気体や液体の容器の材質は音に大きな影響を与えないという見方もありますが、興味のある参加者には実験を促してもよいかもしれません。
箱型や壷型、管では円錐型や円筒型などが考えられます。
円錐型は丸く、円筒型は鋭い音という見方もあるため、違いがあるかどうかの実験を促してもよいかもしれません。
方向性が定まったら、グループごとに用意した楽器の材料を使って、自由に楽器を作る時間をとります。
グループごとに1つではなく、1人1つの楽器(ひとりひとりがオリジナルの楽器)をデザインします。
このセクションの時間は状況に応じて調整してください。
すべてのグループで楽器が完成したら、今度は音律(これから作る曲にどのような音を使うか)と楽譜(作った曲をどう視覚的に記録するか)を考えます。
まずは、主に音の高さを感じやすい楽器を作った参加者を対象として、「どのような高さの音を使って曲を作るか」を決めます。
ひとりひとりがそれぞれ違う高さの音が出る楽器を持っているため、これもグループごとに1つではなく、参加者それぞれで音律をデザインします。
音律が完成したら、「楽譜(記譜法)」について考えます。
このステップは、
のどちらか片方、または両方を選びます。
グループで1つを選んだ場合、ひとつの楽譜の中に複数の音律を持った複数の楽器を表すことになるため、より複雑なコミュニケーションが必要とされます。
このステップではまず最初に、「楽譜」と聞いてどんなものを思い浮かべるかを尋ねます。
おそらくほとんどの参加者はこの五線譜を思い浮かべるでしょう。
これはもともとヨーロッパで生まれたものですが、ヨーロッパの国々が世界に進出すると同時に、世界中に広まりました。
音楽の世界ではこれが当たり前の存在になっているため、この五線譜の読み書きができないと演奏・作曲ができないと思いがちですが、それは現代の日本の音楽業界や教育システムによって作られた錯覚です。
現代の日本や欧米ではこの五線譜が「楽譜」と呼ばれ、まるで世界にはこれしかないような気がしてしまいますが、世界にはこのようにいろいろな楽譜があります。
つまり五線譜というのは無意識に従ってしまっている音楽の表し方の一つでしかなく、五線譜を使わなくても演奏・作曲をすることは十分可能です。
音律を自分で作った場合、それを表すには五線譜では無理があるため、「楽譜(記譜法)」も新しくデザインします。
そもそも楽譜とは、いちばん広く捉えると「音楽を視覚化したもの」や「音楽として演奏される前提の視覚的なもの」というような説明ができます。
例えば電線に鳥がとまっている風景は、鳥の大きさを音の大きさに、鳥の体の向きを音の種類に、電線の高さを音の高さに置き換える、といったルールさえ作ってしまえばそれは立派な「楽譜」になります。
つまり視覚的に音楽を伝えるという機能さえ果たしていれば、どのような形や色を使っても、平面でも立体でも、止まっていても動いていても「楽譜」と呼ぶことができます。
このように、捉え方次第で身の回りのものは何でも楽譜になってしまう可能性がありますが、ここでは楽譜(記譜法)デザインの第一歩として、まずは紙に書く(描く)ところから始めてみます。
ただし、視覚的に記録する目的がなければ、そもそも楽譜を使う必要はありません。
例えば何人かで集まってまったく決め事のない完全即興演奏をするとき、「曲」を演奏するわけではないので、誰かに何かを伝えておかなくてもよい、つまり楽譜を使う意味はありません。
楽譜を読むのは人間なので、人によってや、その日の気分や天気などによって少しずつ解釈の違いがあります。
その解釈の違いを少なくしてできるだけ参加者(作曲者)の意図に近づけたいか、それとも読み手に解釈の自由を与えるかを考えます。
例えばある音を表すのに「高い音」と書くのと「1000Hz」と書くのでは解釈の自由度が大きく違います。
どの楽器を対象に作った楽譜なのかをはっきりさせておきます。
その楽器特有の記譜法(例えば回転する部分があるならそれを回転させる合図となる記号、どの程度のスピードで回転させるかを表す記号など)も考えておきます。
例えば、左から右。
例えば、色が青に近いほど高く、赤に近いほど低い。
例えば、色が濃いほど強く、薄いほど弱い。
例えば、記号が長いほど音が長く、短いほど短い。
例えば1秒を1として、1秒間に2回の枠を置きたいなら2、2秒で1回なら0.5など。
例えば、哀愁など。この曲を演奏してほしい人に伝わる言語で書いておきます。
音律と楽譜が完成したら、それらを使って曲を創るための時間をとります。
楽譜の作り方で選んだ方法に応じて、次のどちらかを選びます。
このセクションの時間は状況に応じて調整してください。
この際、特にグループ内の作業で、曲中での出番の多さなどを調整するような介入は必要はありません。
1人ずつ、またはグループごとに、完成した楽譜を見ながらそれぞれの楽器で演奏します。
実際に演奏する前に、完成した楽譜を全員に見せて、どの部分が何を意味しているのかを説明する時間をとります。
この際、楽譜どおりに演奏できているかを見る必要はありません。大切なのはこれまでの体験を通して参加者それぞれの中で「自分なりの音楽」を発見できたかどうかです。
また、特定の参加者を褒めたり、お手本として取り上げること(またはそう捉えられる行い)はしないでください。
すべてのグループが発表を終えたら、参加者に感想を尋ねます。
口頭での発表、用紙への記入どちらでも構いませんが、どのような感想に対しても「肯定・否定をしないこと」「評価しないこと」を徹底してください。
小山和音
こやま・かずね
音楽教育の新しいかたち作り(創造性と個性を最優先に、音楽を教えず、評価せず、楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくるオンラインの音楽教室)と、音の生まれるしくみ作り(周囲の条件に反応して音楽や音声をリアルタイムに生み出すシステム開発)。