このようなご相談をいただくことがあるので、Q&Aのひとつとして公開します。少しでも参考にしていただければ幸いです。
音楽の仕事をしたいと思っています。
どうすれば周りから音楽家と認められて、仕事の依頼がくるようになるでしょうか。
あるいは自分で仕事を作るべきでしょうか。
これは永遠のテーマですね…。私も個人事業主として、お仕事をいただくまでの難しさは痛いほどよくわかりますので、自分自身の経験をもとにみなさんと同じ目線からまとめました。
まず音楽の世界では、何もせずに待っているだけで依頼がくるケースはとても珍しいので、基本的にまずは依頼のきやすい環境をととのえた上で、自分から行動を起こす必要があります。
音楽の仕事のほとんどはリモートでできますので、時代に合った働き方ができそうです。
それぞれ行うにあたってかかる費用の目安を次のとおり()内に書いておきました。
もくじ
ひとくちに音楽家といっても、たくさんの選択肢があります。これらを組み合わせたり、ここにない方法を編み出すこともできます。
それぞれ見込める収益の大きさと継続性(★が少ない場合は単発の仕事になりがち)を非常にざっくりとまとめてみましたが、あくまでも個人の感覚で、やり方次第では大きく変わるものですので目安程度にお考えください。
リモート:可
収益の大きさ:★☆☆
収益の継続性:★☆☆
コンサートやライブを主催してチケット収入を得る方法です。アプリを使えば一人バンドもできますし、複数人で協力するならばユニットやバンド、楽団などに所属したり、新しく作ったり、あるいは他ジャンルの専門家とコラボレーションを行うこともできます。機材さえ整えれば、オンラインでライブを配信することも難しくありませんし、出演者全員がそれぞれ違う場所から(全員がリモートで)ライブを配信することも可能です。
リモート:可
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★☆☆
クライアントの希望に合わせて演奏し、ギャランティー(報酬・出演料)を受け取ります。ライブだけでなく、スタジオに入って作品のレコーディングに参加することもあります。技術的にはリモートでも可能なのですが、まだあまり認識が広まっておらず一般的ではありません。
リモート:可
収益の大きさ:★☆☆
収益の継続性:★☆☆
ライブを録音しておけば、その場にいない人にもその音を売ることができます。その録音は「ライブ盤」とも呼ばれ、その時でしか出しえなかった音として価値を持ちます。全員がリモートのライブ配信でも、それを録音(録画)しておくことは簡単です。
リモート:基本的にリモートのみ
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★★☆
作った曲を売る方法です。スマホ一台あれば、今すぐにでも曲が作れます。曲単位で販売する方法と、月定額や年定額で使い放題のサブスクリプションとする方法があります。曲を売るといっても最近は動画や店舗向けの音楽や効果音などの需要が大きく、うまく販売すれば継続的な収入が見込めます。あえてCDやレコードなど珍しい方法で販売しない限り、すべてリモートで完結します。
リモート:可
収益の大きさ:★★★
収益の継続性:★☆☆
クライアントの希望に合わせて作った曲を納品し、対価を受け取る方法です。契約形態によっては、作品の使用状況に応じて印税を受け取ることができます。また案件の規模によっては事前に納品される場所の視察を行ったりミーティング・ヒアリングを行ったりすることもありますが、そのような案件でなければすべてリモートで完結します。報酬の相場は案件の規模によって様々ですが、1案件あたり10〜100万円ほどが一般的なように思います。
リモート:会社による
収益の大きさ:★★★
収益の継続性:★★★
ほとんどがゲームや遊技機(パチンコなど)のBGMや効果音ですが、会社に雇われて継続的に作曲家として仕事をするというパターンもあります。年収水準も300万円くらいから、大手企業では700〜800万円くらいまで様々です。この場合、大手転職エージェントでもかなりの数の取り扱いがあるので、まずは相談されてみるのもよいと思います。
リモート:可
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★★★
演奏や作曲のスキルそのものを売る方法です。1対1の場合は個人レッスン、一度に複数人へ提供する場合はグループレッスンとなります。個人レッスンは1人の生徒が講師の時間を独占するため、グループレッスンに比べて割高に設定します。個人の教室を経営してもよいですし、音楽教室の求人に応募することもできます。既存の音楽教室の場合はまだリモートレッスンがあまり浸透していないため、情勢に合わせて休講となってしまう可能性は考えておいたほうがよいでしょう。
リモート:可
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★★★
音楽講師を養成するためのレッスンを提供することもできます。
リモート:リモートのみ
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★★★
ブログを立ち上げて音楽にまつわる記事を公開し、記事内に貼った広告やアフィリエイトリンクから紹介料を受け取ることができます。例えば音楽をはじめるにあたって必要だと思うものを揃える方法を記事にして、自分の使っている機材や楽器の購入ページへのアフィリエイトリンクを貼ると、それをクリックしたり購入した読者の数に応じて販売店から謝礼として紹介料を受け取ることができます。
リモート:リモートのみ
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★★★
YouTubeなどの動画メディアや、Voicyなどの音声メディアで音楽にまつわるコンテンツを配信することで、条件を満たせば広告収入を得ることができます。例えば演奏の方法や作曲のインスピレーションを得る方法などをコンテンツ化します。動画の場合はご自身の顔を出さずにコンテンツを作る方法もあります。上と同じく、動画内で紹介している機材や楽器のアフィリエイトリンクを概要欄に貼っておけば、クリックや購入に応じて紹介料を受け取ることができます。
リモート:可
収益の大きさ:★★☆
収益の継続性:★☆☆
上のブログや動画コンテンツは、視聴者にとっては無料で公開することになりますが、コンテンツ自体を有料で販売することもできます。文章であれば電子書籍や紙の本、課金をした有料記事などが考えられます。紙の本は電子書籍と違って「読み終わったら売る」ことができるので、コストをかけたくない人にとっては現代でも魅力的な選択肢です。
演奏や作曲を依頼したり、音楽レッスンに申し込みをする側は、まず
を確認しますが、ここで必要になるのがポートフォリオ(自分の説明+作品紹介)です。本格的に活動をされている方は自分のホームページを持っていますが、簡単なポートフォリオを作るだけであればホームページを持つ必要はなく、その場合費用はかかりませんので、何もお持ちでない方はまず下記のようなサービスでポートフォリオを作っておくことをおすすめします。
映像なしで音声のみを公開したい場合
映像として(演奏動画などを)公開したい場合
どちらのパターンでも、プロフィールページに自分のプロフィールを書き、作品をアップロードすればとりあえずのポートフォリオは完成です。
大きいプロジェクトであれば過去の実績なども考慮されることがありますので、とにかくプロフィールに書ける実績を積みたい場合は、はじめは無料や格安でもよいので演奏や作曲の仕事を受注してみるのもよいかもしれません。実績をまとめて公表する場合、出演したイベントの日付・場所や請けた案件の詳細などは時系列でまとめておきましょう。
SNSで発信するコンテンツを用意できる方は、SNSアカウントを作っておくと可能性が広がります。特に個人の演奏家や作曲家として発信する場合は、プライベートと発信用のアカウントは分けておいた方がフォロワーの獲得につながりやすいと個人的に考えています。
これはオンラインではなくオフライン(対面)向けです。せっかく新しい出会いがあっても、あなたのことがうまく伝わらなかったり、思い出してもらえないとなると非常にもったいないので、名刺やフライヤーなどを用意しておくと安心です。
上で用意したポートフォリオやSNSアカウントを載せておきましょう。
印刷はプリントパックや東京カラー印刷通販がコスパがよいと感じます。
次のような施設にはフライヤー(チラシ)を置ける可能性があります。置ける場所は意外と限られていることが多いので、事前に電話でフライヤーが置けるかどうか確認しておくと楽です。
街には飲食店、ギャラリー、劇場など、いろいろな種類の施設があります。ふだんはお客さん目線になりがちですが、少し視点を変えて音楽家(出演者)目線でこういった施設を見てみると、自分の演奏している姿がイメージできるかもしれません。
具体的にはこのような施設で演奏の機会を得られる可能性があります。意外なところにあったりしますので、それぞれ地図で検索してみましょう。
*1 規模によりますが、ライブハウスやクラブとは比較にならないほどの会場費(ハコ代)がかかるため、その会場を使ったイベントの演奏枠で出演するのが一般的です。
ワークショップ・フェス・展示会・カンファレンス・フェア・トークライブ・ミートアップなど様々な形態で行われるイベントには音楽の演奏枠があり、一般から出演者を募集していることがあります。
音楽教室や音楽関係の企業などが、演奏や作曲などのスキルを持った人を探していることがあります。運良く近場でやりたい仕事が見つかればラッキーですが、やはり都市部から離れるほど求人が少なくなる傾向にあります。
音楽家やクリエイター系に特化した求人サイトとしてミュージックポータルやQsicmanがあります。
サウンドデザイナーの場合は大手求人サイトや転職エージェントに多く取り扱いがありますが、ほとんどがゲームや遊技機(パチンコなど)を扱う会社です。
音楽のスキルがある(そういった仕事を探している)ことを友人に伝えておけば、もしそのお友達が、音楽家を探している人に出会ったとき、あなたのことを紹介してもらえるかもしれません。私自身、過去にいただいた演奏・作曲のお仕事のほとんどは人づてでした。
また、新しい出会いがあったときに、上で用意した営業ツールを使って、演奏や作曲をしているという自己紹介をしてみるとよいかもしれません。特に相手が音楽関係者ではない場合、音楽家というだけで珍しいため記憶に残りやすくなります。
演奏や作曲は、機会そのものが継続的なものであれば(たとえば定期的なイベントでの演奏や季節ごとに入れ替えのあるBGMなど)、一度請けて先方に満足していただければその後もお願いされることがほとんどです。
音楽学校や音楽大学には、在学生向けの案件のオファーがよく入ってきます。私自身も、音楽フェスのテーマソング・ジングルやCMソングの作曲、各地での演奏など、音楽学校在学中のお仕事のほとんどは学校の事務・先生方・在学生経由でいただきました。
演奏に関しては、卒業後も先生方や同期、先輩方に声をかけていただいて演奏を続けることができます。これは、在学中にいかに人脈(信頼関係)をつくっておくかで大きく変わってきます。実際私も、卒業が近くなると先生方からも声をかけていただけるようになり、これは卒業後もしばらく続きました。
私の場合は報酬の額にはこだわらず、とにかく演奏の機会があれば積極的に「出たいです!」と希望を出していました。今振り返ってみると、この姿勢が人脈や信頼関係を作ってくれたのだと思えます。
一方で作曲の場合、学校内に作曲の仕事を請けられる生徒がいないと事務から卒業生に話が回ることもありますが、基本的には卒業すると学校側からは情報がこなくなるので、定期的に母校に足を運んで情報を得るように心がけているとよいと思います。
学校を中退された場合、母校へは足を運びづらいかもしれませんが、同期や先輩、先生方と連絡がとれるのであれば積極的にとっておくと、「つて」でお仕事をいただける可能性は十分にあります。もしその時仕事がなくても、仕事を探していることさえ覚えてもらえれば、今後発生する仕事で声をかけてもらえるかもしれません。時間がたつほど(気持ち的に)連絡はとりづらくなっていきますので、早いほうがよいでしょう。
それなりに費用はかかりますが、音楽を生業とするには確実で早い方法のひとつです。
それと、これは誤解が多いのですが、このページで挙げている方法を実践するにあたって、学歴や学位があるかどうかはあまり関係がありません。例外となるのは↓のようなケースです。
音楽系ではない(音楽関係者ではないメンバーがメインの)コミュニティの方が、むしろ音楽を提供できる人口が少ないため、「演奏ができる」「作曲ができる」といったスキルは重宝される傾向にあります。
そのため、自分ができることをうまくアピールしておくと、コミュニティ内で何かを一緒に作ることがあれば、声をかけてもらえるかもしれません。
自分のスキル(演奏や作曲ができる)を売るためのサービスがいくつかあります。自分のできることを掲載しておいて、それを見た人が依頼をする、というものです。
音楽と相性がよさそうなジャンルの専門家とコラボレーションを行うのも面白いです。私の場合はライブペインティング、映像(VJ)、料理、ダンス、絵画、インスタレーション、写真、書道、タップダンス、お香、陶芸といった幅広いジャンルの方と積極的にコラボレーションをしてきました。他にも例えば次のようなジャンルの方とコラボレーションが行えそうです。
動画、ゲーム、アプリ、イベントといった場面で自由に使える音楽や効果音を調達するのは、権利関係のせいで一苦労です。
そこで、こういった用途で使えることが確認されている音楽や効果音だけを厳選して販売するサービス「オーディオストック」が登場しました。
オーディオストックは曲単体での販売だけでなく、販売プランや提携サービスなどが幅広く、販売を許可するほど収入が増える可能性があります。
ご自身で曲を作られている方は、ひとまずここに作品を登録しておくだけで、放置していても不労所得が生まれますので、まずは試してみるのもよいでしょう。
インターネットの世界で日本語を理解できる人は2.8%(100人に3人いるかいないか、くらい)という調査結果があります[1]。
2018年4月現在、世界人口76億人のうちインターネット利用者は41.6億人で、そのうち25.3%にあたる10億5276万人は英語を扱い、19.4%(8億463万人)の中国語、8.1%(3億3789万人)のスペイン語と続き、日本語を扱う利用者はわずか2.8%(1億955万人)とのこと。
インターネット上の作品の公開や販売に関しては、2.8%の日本語ユーザーだけを意識するより、他の言語圏のユーザーも意識しておいた方が収益だけでなくコラボレーションや取材など今後の発展につながる可能性が明らかに大きくなります。
例えば公開する作品が「音」だけの場合、説明に少し英語を足してあげるだけでも世界は大きく広がります。
これらの中からできそうなものをいくつか並行してしばらく(たとえば3ヶ月)試してみたうえで、手応えのあったものを優先して続けていくことで、ご自身に合った方法が見つかるはずです。
もしこの記事がきっかけでうまく仕事につながったら、ご報告いただけると嬉しいです。
他にわからないことや、もう少し詳しく聞きたい点があれば、お問い合わせフォームやTwitterなどでお気軽にお声がけください!
小山和音
こやま・かずね
音楽教育の新しいかたち作り(創造性と個性を最優先に、音楽を教えず、評価せず、楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくるオンラインの音楽教室)と、音の生まれるしくみ作り(周囲の条件に反応して音楽や音声をリアルタイムに生み出すシステム開発)。