低周波を打ち消すイヤホンやホワイトノイズなど、耳栓以外にも騒音対策や音を遮断する方法はあります。
この記事では、周りの音を聞こえなくするための方法を音響的に解説します。隣人がうるさい方、周りの音を消したい方のご参考になれば幸いです。
もくじ
目は閉じられても、耳は閉じられません。ふさぐことはできても、音は少なからず入ってきてしまいます。
にもかかわらず大声で話したり笑ったり、重低音の出るスピーカーで音楽を流したりゲームをしたりと、周りに気を遣えない人は世の中にとても多く、それでストレスを抱える方も多いはずです。
筆者も音にはかなり敏感な方で、これまで色々な騒音に悩まされてきましたが、そのたびに色々な対処法を試して、どのような音に対してはどのような方法が効果があるかがわかってきました。
この記事では、あなたがご自宅の中にいるとき、外(隣の部屋も含む)から聞こえてくる音に悩まされているという想定で、実際に筆者が試して効果があったものをご紹介しています。
騒音の種類によって対処法が少しずつ変わってきますので、はじめに整理しておきます。
音の正体は振動であり、音の高さ(1秒間に何回振動するか)をHz(ヘルツ)、音の大きさをdB(デシベル)という単位で表すことができます。
といっても、この世界の音は「◯Hzの音が◯dB」というほど単純ではなく、いろいろな高さの音が混ざり合っているため、音によって「成分」が違うとイメージしたほうがわかりやすいと思います。
例えば車のクラクションは、同じ高さの音を出していても、「ペーッ」や「パァー」、「ビーッ」など車によって「音色」が違います。これは音の成分の違いによるものです。
そのため、騒音の成分も「◯Hzの音」と一概に言うことは難しく、「◯Hz〜◯Hzくらいの音がいちばん強くて、◯Hz〜◯Hzくらいの音がその次に強い」というような表し方になります。
音の高さの目安です(最も強い周波数の数値を載せています)。
↑「超音波」 | |
約20 kHz | ヒトが(鼓膜で)聞こえるいちばん高い音(若い人) |
17〜19 kHz周辺 | モスキート音 |
4.5 kHz周辺 | 鈴虫の鳴き声 |
4 – 5 kHz周辺 | ヒヨドリの鳴き声 |
3 kHz周辺 | ヒトがいちばん敏感な音の高さ |
2 – 4 kHz周辺 | 花火が上がっていく「ヒュルルル」という音 |
960 Hz | 救急車のサイレンの「ピー」(高い方) |
880 Hz | 時報の「ポーン」(最後の高い音) |
770 Hz | 救急車のサイレンの「ポー」(低い方) |
440 Hz | 時報の「ポッ」(最初の3音) |
400 Hz | 電話の呼び出し音(プルルル) |
100 Hz | |
↓「低周波音」 | |
約20 Hz | ヒトが(鼓膜で)聞こえるいちばん低い音 |
↓「超低周波音」 | |
0 Hz | 振動なし |
個人差はありますが、人間の耳(鼓膜)で認識できるいちばん低い音はおよそ20Hz、いちばん高い音は歳をとるにつれて下がっていきますが若い人でおよそ20kHz(20,000Hz)とされています。
20Hzより低い音を「超低周波音」、高すぎて人間が聞こえない音(一般的に20kHzより高い音)を「超音波」と呼びます。
100Hz以下の低い音を「低周波音」と呼びますが、このくらい低くなると音というより「振動」として感じ、17kHzくらいの高い音は音というより「空気感」や「めまい」のように感じます。
音の性質上、高い音は障害物(壁や窓ガラス、カーテンなど)で跳ね返ったり吸収されたりしやすいため遮るのが簡単なのですが、低い音になるほど障害物ごと振動させてその裏に伝わってしまうため、遮音が難しくなります。
騒音の種類別に、それぞれおすすめの遮音方法をまとめました。それぞれの方法については、記事の後半で解説しています。
隣人(隣室だけでなく上下階を含む)の生活騒音は、主にこのようなものがあります。
窓やドアを閉め切った状態で自室に聞こえてくる音を基準にしています。
人の声やテレビの音であればそこまで苦労せずに遮音できるケースが多いかと思いますが、低音がよく鳴るスピーカーで音楽を流していたり、スリッパを履かずに歩いている・子供が走り回っているような場合に発生する音は、とても遮音の難易度が高いです。
聞こえてくる音の高さ | 遮音 | おすすめの遮音方法 | |
---|---|---|---|
話し声・笑い声・叫び声・泣き声 | 中域 | そこまで難しくない | すべて |
テレビの音 | 中域 | そこまで難しくない | すべて |
音楽(ズンズン聞こえるもの) | 低域(低周波音) | 難しい | A D F |
足音 | 低域(低周波音) | 難しい | A D F |
車やバイク(ガソリン車やディーゼル車)には排気音を抑えるマフラーと呼ばれる筒状の部品が付いていますが、これを改造する(純正でないものに交換する)と排気音が大きくなることがあります。
エンジンの型式やマフラーにより音の成分が変わり、エンジンの回転数が上がるほど音の高さも上がるため一概に音の高さを特定するのは難しいですが、信号待ちでは低周波音の割合が多く、走っている状態ではそれより上の音の割合が多い傾向があります。
改造をしていない普通の車(ガソリン車やディーゼル車)であっても、エンジンをかけた(アイドリング)状態で発生する音には低周波音が含まれています。
そのため駐車場に面した住宅では、アイドリングをしている車から発生する低周波音が室内まで届き、(場合によっては定在波が発生することで特定の高さの音だけが強調されたような状態になり)住民の方が騒音に悩まされるケースがあります12。
一般家庭に設置する家庭用ヒートポンプ給湯器(エコキュート)や家庭用燃料電池コジェネレーションシステム(エネファーム)は、稼働時に低周波音を発生させることから、設置した家だけでなく周辺の家にまで影響が及び、頭痛、不眠、動悸、めまい、胸の圧迫感といった健康被害が報告されています34。
近年、17kHz(17,000Hz)〜19kHz(19,000Hz)周辺の高周波音を発生する装置を出入り口に設置する商業施設が増えており、現在日本では主に都市部の大型商業施設で数多く確認されています。
住宅や店舗の前に居座る若者を追い払うことを目的として2005年にイギリスの民間企業が販売を開始した5製品名が「The Mosquito(ザ・モスキート)」であったことから、日本では一般的に「モスキート音」と呼ばれています。
日本では「若者避け」のために設置するケース6と、「ネズミ避け」として設置するケース7があるようです。
ヒトが音として認識できる振動は一般的に20Hz〜20kHz(20,000Hz)程度とされていますが、これは若いヒトの場合であり、歳をとるほど高域の音が聞こえづらくなるため、モスキート音を聞き取れる人は限られます。
騒音を認知できなくする(気にならなくする)には、次の2つの方向性があります。
減らすこととかき消すことは同時にできるので、まずは耳に入る騒音の量を減らして、それでも気になるようであればかき消す(あるいはその逆)ことで、ある程度のレベルまで抑えることができます。
効果 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ |
メリット | 特定の高さの音にはとても効果的 |
デメリット | 付けたまま横になれない 長時間で耳が痛くなることも |
外からやってくる音の波と逆の波をイヤホン or ヘッドホンの中でぶつけて打ち消す(音で音を消す)「ノイズキャンセリング」と呼ばれるしくみを採用したイヤホン or ヘッドホンです。
ノイズキャンセリングをオンにすると周りの音が聞こえなくなり、少し経ってからイヤホンを外すと外の音の多さに驚くほどです。
機種によって打ち消しが得意な音域が違うため、悩まされている騒音の高さによって適切なイヤホン or ヘッドホンが変わってきます。
一般的には、イヤーピースと呼ばれる耳に当たるやわらかい素材が付いているタイプの方(AppleのAirPodsでいうと「Pro」が付くほう)が、付いていないタイプに比べて遮音性能が高いケースが多い印象です。
ノイズキャンセリングをオンにしてもまだ騒音が気になる場合は、下でご紹介する滝の音やアンビエントを流してもよいでしょう。
あまり大きい音で流すと耳にダメージを受けてしまいますので、なるべく小さい音で流すことをおすすめします。
効果 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ |
メリット | 安い |
デメリット | 長時間だと耳が疲れる・蒸れる |
耳栓の遮音性能(どのくらい音を小さくできるか)は「dB(デシベル)」という数値で表されており、この数値が大きいほど、聞こえる音が小さくなります。
ただ、この数値は測定方法次第ではいくらでも大きく(水増し)することができるため、遮音性能の測定方法や算出方法(規格)が明記されておらず「◯dB」とだけ書かれているものは信憑性がないと判断してよいでしょう。
日本で入手できる耳栓の中では
これらのどちらか(あるいは両方)が記載されている製品であれば、遮音性能の数値を信頼して問題ありません。
この2つは算出方法が少し違うのでSNRの数値とNRRの数値を比べることはできない点はご注意ください(比べるときはSNR同士、NRR同士でなくてはいけません)。
まとめると、筆者としては
これらの条件を満たしている耳栓をおすすめします。
遮音性能を重視するならばLoop社(ベルギー)のSwitch 2の最も静かなQuietモードが、これらライブ用耳栓よりも高い遮音性能(EN 352-2:2020に準拠したSNR値で26dB)であることがわかります。
同じくLoopのQuiet 2 Plusは、Double Tips装着時の遮音性能(SNR値)が平均27dBです。
Loop Quiet 2 Plusについては、こちらの記事で詳しくレビューしています。
効果 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ |
メリット | 付けたまま横になれる |
デメリット | 長時間で耳が痛くなることも |
睡眠時でも邪魔にならないワイヤレスイヤホンも発売されており、特に寝ながら使うことに特化した製品は「寝ホン」とも呼ばれています。
一般的に寝ホンは耳の中にすっぽり収まるデザインで、つけたまま横になったり、そのまま寝てしまうことを前提に設計されています。
電化製品大手のAnkerはこれまでにSoundcore Sleep A10・A20という睡眠特化型ワイヤレスイヤホンを発売してきましたが、2025年9月に最新モデルのA30が発売されました。
寝ホンだけでなく、現在では寝たまま使える耳栓(イヤホンではないので音は出ない)を少しずつ見かけるようになりました。上でご紹介したLoop社からもDreamという睡眠用耳栓が発売されており、高い遮音性能(EN 352-2:2020に準拠したSNR値で27dB)であることがわかります。
効果 | ★★★★★ (想像) |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ |
メリット | 耳の閉塞感や異物感がない |
デメリット | 低い音には不向き |
筆者は試したことがありませんが、このような遮音グッズも存在します。
構造上低い音はほとんど遮れませんが、ヒヨドリの声のような高い音を遮るのは比較的得意なはずです。
効果 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ (スピーカーやイヤホンがある場合) ★★★★★ (スピーカーやイヤホンを買う場合) |
メリット | 簡単で効果的 |
デメリット | 耳への負担を考慮する必要がある |
ホワイトノイズは「ザー」という音で、低い音から高い音までいろいろな音の成分がまんべんなく入っています。
このような音は、他の音をかき消す・打ち消す(マスキングする)のに向いているという性質があります。
iPhoneやiPadをお使いで、iOSまたはiPadOSが15以降であれば、ノイズや波の音、雨の音などの環境音などを流す機能(「バックグラウンドサウンド」)があります(OS標準の機能ですので、アプリなどをインストールせずに使えます)。
iPhoneやiPadの内蔵スピーカーでは低い音が出ずマスキング効果が弱いため、スピーカーかイヤホン(ヘッドホン)を別途用意することをおすすめします。高い音に比べて低い音(低周波音)は他の音を打ち消す(マスキングする)力が大きいためです。
スピーカーは、このように重低音の出るものをおすすめします。
このLogicool G560aは、Bluetoothで接続できるスピーカーの中では珍しく周波数特性(どのくらいの高さの音を再生できるか)を公開しています。ヒトが聞こえるいちばん音はだいたい20Hz〜20kHz(20,000Hz)くらいですが、このスピーカーは40〜18kHz(18,000Hz)と、ヒトの可聴域をほぼカバーしています。
「低周波音」に分類される音は100Hzから下ですが、このスピーカーであれば低周波音をマスキングするのに十分かと思います。
ノイズキャンセリングイヤホンは、上でご紹介したAirPods Proなどでよいでしょう。
MacBookやiMacなどをお使いで、macOSがVentura(13)以上であれば、上のiPhone / iPadと同じようにノイズや波の音、雨の音などの環境音などを流す機能(「バックグラウンドサウンド」)が使えます。
Macの内蔵スピーカーではマスキング効果が弱いため、外部スピーカーかイヤホン(ヘッドホン)を別途用意することをおすすめします。
一般的に「ザー」と表現される音はこれに近い音なので、ホワイトノイズに限定しなくとも、例えばこの動画のような滝の音でも似たような効果は得られます。
上の動画以外にも、「滝」や「waterfall」で検索して見つかった動画の中からお気に入りの滝の音を流してみてもよいでしょう。
パソコンやスマホの内蔵スピーカーは構造上、高い音に比べて低い音が出ないため、次のような低い音が出せるスピーカーから流すと効果が高まります。高い音に比べて低い音(低周波音)は他の音を打ち消す(マスキングする)力が大きいためです。
イヤホンの場合は、AirPods Proのようにイヤーチップの付いたものがよいでしょう。
効果 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ |
メリット | 簡単 |
デメリット | 耳への負担を考慮する必要がある |
変化が極端に少ない「アンビエント(ambient)」や「環境音楽」と呼ばれるジャンルの音(音楽)の中には、外から聞くと掃除機や換気扇の音にしか聞こえないものもあるので、近くの方に気を遣いたい方にはおすすめです(自己責任でお願いします)。
インターネットラジオでも自称「アンビエント」はたくさんありますが、筆者はアメリカ・オハイオ州の夫婦が運営するチャンネル“Ambient Sleeping Pill”を作業中によく流しています。ネットラジオによくある広告やサウンドロゴがないだけでなく、流れる音の変化も非常にゆっくりで、集中の妨げになりません。
再生する際は、スマホやパソコンの内蔵スピーカーではなく、上でご紹介したような外部スピーカーやイヤホン(ヘッドホン)をおすすめします。
効果 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★ |
費用 | ★★★★★ (すでにある場合) ★★★★★ (空気清浄機を買う場合) |
メリット | 簡単 |
デメリット | 空気清浄機を買う場合は費用がかかる |
キッチンの換気扇や大型の空気清浄機などを風量が強いモードで運転すると、一定のマスキング効果があります。
これらの設備が出す音に騒音源の音域がうまくはまると、それだけで気にならなくなることもあります。
筆者は音が気になるとき、この空気清浄機の2022年モデルの「ターボ」モード(風量が一番強いモード)を使っています。
体感的には交通量の多い交差点くらいの音量でゴォーという音が出るので、電話やミーティングはしづらいくらいですが、それだけマスキングの効果も高いです。ついでに空気もきれいになります(本来はこちらがメインですが…)。
専用アプリを使うと時間帯ごとに風量設定を自動で切り替えられるため、例えば隣人(騒音源)の帰宅時間が決まっている場合はその時間から隣人(騒音源)の就寝時間までは風量がターボになるように設定しておくと、いちいち切り替える手間が省けます。
こういった低周波(音)を「打ち消す」「気にならなくする」ことを目的としたアプリは存在しますが、そういったアプリは単純にホワイトノイズ(滝のような音)などを再生するだけのもので、アプリだけで低周波を打ち消せるわけではありません。
上で解説しているとおり、パソコンやスマホ内蔵のスピーカーでは低周波に相当する帯域の音が出せない(低周波を打ち消したりかき消すことができない)ため、Dでご紹介しているようなノイズキャンセリングイヤホン or ヘッドホンや低域の再生が得意なスピーカーを使わないかぎり効果は期待できません。
つまり、アプリよりも再生機器をしっかり選んだ方が効果的ということです。
上でご紹介した方法は、組み合わせることでより強力なマスキング効果を発揮します。
↓この中では、下に行くほど遮音効果が高くなります。
これらの対処法を試してもまだ気になる場合は、音量や音域的によほど遮りにくい騒音があるか、よほど遮音性の低い部屋にお住まいかと思われます。
持ち家の場合は防音工事を視野に入れることはできますが、賃貸住宅の場合は管理会社さんに相談することになってしまうのでは…と思います。
少しでもお役に立てたら幸いです。
世界にひとつだけのオリジナルの楽器をデザインし、五線譜ではない楽譜やドレミではない音律をグループで話し合って作り、それらを使って音楽をゼロから創作する音楽教育プログラムを中心に、音(楽)にまつわるユニークな取り組みをしています。お仕事のご依頼やコラボレーションのご提案など、お気軽に!