「絶対音感」とは何でしょうか?本当に必要でしょうか?
適度な絶対音感を持ち、音楽家として活動してきた筆者の目線からメリットとデメリットをまとめました。
もくじ
聞こえた音の高さを何とも比べずに認識できる感覚を「絶対音感」と呼びます。
他の音と比べたときに認識できる感覚は「相対音感」と呼ばれます。
これはあまり知られていないようですが、絶対音感は「ある」か「ない」かという基準だけでは測ることができません。「どんな音に対して、多いか少ないか」という感覚です。
絶対音感を持つ人でも、特定の楽器の音だった場合がいちばん正解率が高く、ほかの楽器の音や電子音だと正解率が下がったり、特定の音だけ正解率が高かったりします。
たとえば筆者の場合、母親がピアニストであり、記憶にないくらい小さい頃から家にあったピアノで遊んでいました。
ところが黒鍵が嫌いで白鍵ばかり使っていたせいか今でも白鍵(ピアノでいう白い鍵盤)の音は比較的簡単に頭の中で鳴らせるので、ギターやベースは数秒もあればチューナーや音叉を使わずにチューニング(各弦の音程の調整)ができるし、演奏中にチューニングのズレに気づいて演奏しながらその場で直すこともできます。
ところが黒鍵(ピアノでいう黒い鍵盤)の音は単体で聞いてもすぐにはわからないので、まず頭の中で白鍵の音を鳴らしてから比べます。
なので、絶対音感があるかどうか聞かれたときは「ピアノの白鍵の音はわりとある・他はまったくない」と答えています。しかもその「ある」方の絶対音感も、強いほうではありません。
作曲や即興演奏をしていると伝えると、よく「すごい!絶対音感あるんですか?」と聞かれますが、絶対音感がなくても作曲や即興演奏はできます。
これはおそらくですが、「作曲=特別な才能=英才教育=絶対音感」のような勘違いから生まれたイメージのせいだと思います。
絶対音感がなくても頭の中に音は浮かぶし、浮かんだ音を楽器などを使って外へ出すこともできます。
確かに(他人の曲を演奏する)演奏家としては現場で便利ですが、自分でゼロから作り出す作曲家や即興演奏家としては、絶対音感があることは特にメリットになりません。
それどころか、デメリットになる可能性があります。
お子さんに絶対音感を身につけさせたいと思っている方もみえるかもしれませんが、少し慎重になられた方がいいかもしれません。絶対音感も良いことばかりではないためです。
バンドでよくある「キー(調)をひとつ上げる」というような場面でもすんなり対応できます。
ステージに立つギタリストやヴァイオリニストなら、たとえ演奏中でも一瞬でチューニングを直してしまえるので、曲の合間に時間をとることもありません。
このような試験や授業を導入している学校でも有利になります。
「耳コピ」というのは耳でコピー、つまり聴いて真似することです。
筆者は簡単にできるので、ミュージシャン時代は楽譜を読まずに音源だけ聴いて曲を暗記していたし、他の楽器のソロを聴いてソロで返すときに会話のようなやりとりができて楽しかったです。
筆者の中ではこの影響が大きいです。たとえば私は小さい頃、他のキー(調)に比べて圧倒的に白鍵だけのキーを多く弾いて(聴いて)きたので、頭でその音の組み合わせや配列の感じをはっきり覚えてしまっています。
そのため、キーや構成音が似たキーで作曲や即興演奏をするとき、音(アイディア)が浮かびにくくなっています(「キーに飽きる」という表現がしっくりきます)。
筆者は違うのですが、絶対音感が強い人はエアコンの音、バイクの音、鳥の声、電子音などがすべて音程として聞こえる、という話も聞いたことがあります。
耳は閉じられないので、聞きたくないときに聞こえてくる音によって集中を妨げられたり、疲れてしまう可能性も否定できません。
咳止め薬や抗てんかん薬の副作用からくる音感の異常で不快感を覚えることがあるようです(これも筆者は違うので又聞きです)。
これは音楽の専門学校や音楽大学に限ったことですが、実技系の授業や試験の中に「移動ド」(たとえばDで始まるメジャースケールを、音程はそのままで、読み方だけレミフィソ…ではなくてドレミファ…で歌う)があると、強い絶対音感がある人は、違和感がありすぎてうまく歌えないことがあります。
ちなみに筆者は、移動ドの違和感はまったく感じません。
これらのメリット・デメリットを把握した上で、絶対音感を自分のこどもに身につけさせたい場合、どのようにしたらよいのでしょうか?音感についての研究をいくつか読んでみましたが、
という説と、
という真逆の説があり、確実なことは言えない状況です。
絶対音感を「半分」持ち、演奏家や作曲家として活動してきた経験から考えると、私の音感は絶妙なちょうどよさだと思います。
音感の利点を最大限に活かせているし、よく使うキーに飽きてはいるものの日常生活にはまったく支障もありません。
ただし、幼い頃の筆者のようにキーの偏りがないようにすればちょうどいい音感が身につくとも限りません。
筆者はたまたま音楽を扱う道に進んだので絶対音感の利点を利点と思えますが、違う道を歩む人にとってはあまり関係がなく、むしろ日常生活にハンデがつくということにもなりかねません。
何がちょうどいいのかは、人によって大きく変わってきます。
個人的には、お子さんの意思を尊重する、つまりやりたいようにやらせてあげるのが一番かと思います。
筆者もそうでしたが、親に白鍵だけしか弾かせてもらえなかった訳ではなく、自分の意思で白鍵を弾かず、黒鍵を弾くように親から強制されてもいないので、私は完全に自分の意思だけでちょうどいい音感を身につけたことになります。
どのくらいの音感がちょうどいいのか分からないのであれば、せめてお子さんの意思を第一に考えてあげるのが無難かそれ以上の結果を生むのではないかと思います。
世界にひとつだけのオリジナルの楽器をデザインし、五線譜ではない楽譜やドレミではない音律をグループで話し合って作り、それらを使って音楽をゼロから創作する音楽教育プログラムを中心に、音(楽)にまつわるユニークな取り組みをしています。お仕事のご依頼やコラボレーションのご提案など、お気軽に!