この記事は、まったく未経験の状態から「作曲を始めたい」「こどもに作曲をやらせたい」とお考えの方を対象としています。
作曲や即興演奏ときくと「難しそう…」「自分には…」という声が聞こえてきます。
おそらく、
というイメージがあるのではないかとお察ししますが…誤解です。
音楽室にずらりと「作曲家」の肖像画を並べられて「聴きなさい!これが偉大な作曲家が作った曲です!」と、彼らの作った曲を延々と聞かされれば、こういうイメージができあがりますよね…。
でも待ってください。作曲や即興演奏というのはそもそも、
これだけのことです。特に即興演奏なんて、何かに近いと思いませんか?そう、鼻歌や口笛です。
そしてその鼻歌や口笛を録音して「こういう作品です」と宣言したら、それは立派な「作曲」です。
作曲や即興演奏というのは、本来このくらい身近な現象のはず。ところが音楽教育や音楽業界がそれを崇高な行為のようにみなさんに伝えてしまっていて、それに疑問を感じる人もいないため、いつまでも「私たち」と「作曲家」の間には大きな溝があります。
でも大丈夫です。少し考え方を変えれば、曲は誰にでも作れます。
それは、私がこれまで開催してきたワークショップ「音楽を創る」やオンラインの音楽教室「音楽キッチン」で証明されているし、この記事を読んで作曲を始めるみなさんも実感できると思います。
難しいことは考えずに、まずは作曲を体験してみましょう!
現代では、ほとんどお金をかけなくとも作曲を始めることができます。
手順や理論を気にしすぎて作曲が楽しめなかったり、アイディアが浮かばないというのはもったいないですので、まずはなんでも気楽に体験してみるところから始めることをおすすめします。
まずはスマホ・パソコンどちらを使って曲を作りたいかで決めてみましょう。
音楽について根本から考えていると、dBやらHzやら専門用語に出会うことが多くなります。
音楽ではなく「音」そのものは24時間ずっと触れているのに、それについて知る機会はそう多くないので、近いようで遠い存在かもしれません。
でも、音は本当に奥深くて神秘的で、何よりも勉強していて面白いです。
あなたも体験したことがあるかもしれないいろいろな現象があるので、そこから作品づくりのアイディアが浮かぶかもしれません。
音についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
この記事にたどり着いたあなたは楽器をつくるところから始めるので、楽器を買うことはないでしょう。
でも、マイクやヘッドホン、スピーカー、オーディオインターフェースといった録音や配信のための機材を自分で作るのはとてもハードルが高いし、そもそも個性や創造力には影響しないので自分で作らなくても大丈夫です。
このような機材を扱うとき、ちょっとした知識があるととても便利だし、作品づくりがとてもスムーズになります。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
おそらくこのあたりで、マイクやヘッドホンがあれば…と思われたかもしれません。それぞれ記事にまとめていますので、ご参考にどうぞ。
作曲や即興演奏について考える前に、まず「音楽とは何か」を整理しておきましょう。
「音楽とは何か」については、こちらの記事で詳しく書いています。
即興演奏や作曲には、自信(考え方・心の持ち方)が大きく関係しています。
皆さんがこれまで受けてこられた音楽教育では、おそらく
といったものがほとんどではないでしょうか。
実際、「即興演奏や作曲なんて自分には…」「近づきがたい…」という方が多いのですが、この教え方では無理もありません。
音楽の世界では、人によって考え方がまったく違います。価値観の違いでバンドが解散することもあれば、音楽学校の先生同士で(心の中で)いがみ合いをしていることもあります。
音楽の世界にはいろいろな価値観があって、その中に「正解」はありません。人の数だけある価値観に振り回されてしまっては疲れるだけですので、「自分は自分」と自信を持つことが大切です。
実は作曲に「基本」が存在するかどうかの答えは「人(場合)による」になります。
例えば世界各地に残る伝統音楽には受け継がれてきたスタイルがあるので、そのスタイルに沿った曲を作りたいのであれば「基本」をおさえる必要がありますが、おそらくこの記事にたどり着いたみなさんの大半はそうではなく、ただ純粋に「曲が作ってみたい」とお考えでしょう。
その場合、作曲に「基本」はありません。つまり、何も勉強しなくてもOKだし、感覚のままに作ってしまって大丈夫です。
そこで「何も勉強せずにちゃんとした曲が作れるの?」と不安になる方も多いのですが、その「ちゃんとした曲」というのも、日本の音楽教育の影響で生まれてしまった考え方だと思います。
「ちゃんとした曲」というのは、下のようなものを「勉強」したり「練習」したりすることで(「カタチから入る」ことで)、自分の個性や創造力と引き換えに身につきます。
このようなものを最初に用意したり勉強したりすれば確かに「ちゃんとした曲(=誰でも作れる個性のない音楽)」は作れるようになりますが、それはAIでも作ることができます(ありがちな曲を生成するサービスは欧米を中心にすでに普及しています)。
何も考えずに「カタチ」から入るというのは、自分の個性や創造力を犠牲にしておきながらAIが量産できる曲をわざわざ自分で作ろうとするようなものですので、筆者は他人が考えた楽器や楽譜、音楽理論や曲は一切紹介していないし、教室やワークショップでも扱うことはありません。
もしみなさんが、AIが簡単に量産できる音楽ではなく「自分らしい音楽」を作りたいのであれば、「カタチ」から入るのは避けたほうがよいでしょう。そこで必要になるのが、本当に必要なものをゼロから自分で作り出す力です。
曲を作るのはあなた(もしくはお子さん)なので、あなた(お子さん)が作曲家です。
「勉強」のつもりで他人の曲を聴き続けていると、自分という色がどんどん薄れていき、しまいには取り戻せなくなります(これは筆者の実体験から証明できます)。
身体の状態が変わったとき(よくあるのは入浴中など)に曲のアイディアが浮かぶことがあります。逆に静かすぎる場所や、人に見られている環境では何も思い浮かばないこともあります。
このように自分の身体の状態によって、まったく違う音が生まれます。これは自然なことですので、何も浮かばないときに同じ状態でがんばるよりは、例えば深呼吸をしたり、外に出たり、シャワーを浴びたり、とにかく自分の状態を変えてみましょう。
それでも浮かばない場合は、潔くその日はあきらめて、別の日に試してみてください。
私たちは人間なので、その日の気分や天気、疲れ具合やお腹の減り具合、ストレス、最後の即興演奏・作曲からどのくらい時間が経ったかなどいろいろな要素が関わってきます。
特に旅行中は新しい刺激をたくさん受けるので、曲作りに繋げられないか意識してみましょう。
スーパーに買い出しに行っても、動画を見ても、いろいろなところで「音楽」が聞こえてきます。その中にはすぐ忘れてしまう音楽もあれば、何週間も頭の中で流れ続ける音楽も、一生忘れないような音楽もあります。
この「頭の中で流れている曲」がある状態では、「その曲っぽい」音楽ができあがることもあります。それでOKならいいのですが、都合が悪いときはまずその「頭の中で流れている曲」を消して、からっぽの状態を作りましょう。方法は2つあります。
テーマを決めると、曲が作りやすくなることがあります。
テーマを見つけるための小さな旅「音さんぽ」がおすすめです。
テーマが決まったら、音をどうやって鳴らすかを決めます。
頭の中で鳴っている音を直接出す技術はまだ実用化されていないようです(2022年8月現在)が、
という2つの考え方があり、どちらが人間の表現として自然なのかは意見が分かれるところです。
ここでは大きく分けて物理楽器、サンプラー、仮想楽器という3つの方法をご紹介します。
身の回りにあるものや木の枝や石などの自然物、自分でデザインした楽器などを使う方法です。
詳しくはこちらの記事で解説しています↓
もちろん工作ができれば便利ですが、CADデータさえ作れれば、3Dプリンターで自分だけのオリジナル楽器を作ることもできます。その場合、選択肢としては2つ。
録音した現実世界の音を素材として、その素材の音の長さや高さを自由に変えて音を作るサンプラーを使う方法です。
手っ取り早い方法は、最初の体験(スマホ編)で登場したKoala Samplerです。
プログラミングをしてパソコン上にまったく新しい楽器を生み出すこともできます。
筆者が長年愛用しているのはCycling ’74社の「Max」というソフトで、これは簡単に言うと「音声や映像に特化したソフトを作るソフト」です。
Maxは他のプログラミング環境とは違って、パソコンの画面上で部品と部品を線でつなぐことでプログラミングをします(電子工作のようなイメージです)。
そのため、情報がどこからきてどこへ流れていくのかがパッと見てわかりやすく、プログラミングが未経験の方にもおすすめできます。
例えばキッチンにあるコップを鳴らしたときの音の高さを測って、その音の高さに名前をつけたとしたら、それは立派な音楽理論です。そのくらい気軽に音楽理論を作って、それに沿った曲を作ってみましょう。
そもそも自分でゼロからデザインした楽器は既存の理論にあてはまらない可能性があるので、自分でデザインした楽器を基準に音楽理論を考えてみましょう。
ひとつの音楽理論に沿って楽器や曲を作るだけではなく、楽器や曲ごとに音楽理論があっても大丈夫です。
まずは、このようなステップを順番に試してみてください。
4で決めたテーマ1つにつき、5からひとつ音の出し方を選び、ひとつのテーマ×ひとつの音の出し方につき下記それぞれの組み合わせを試してみてください。
いくつかの(例えば8個や16個など)枠に数字をあてはめ、ランダムにいくつか選んだ数字のタイミングで演奏します。
楽器から出る音に数字をひとつずつあてはめ、ランダムにいくつか選んだ数字に沿って演奏します。
曲はこのくらいの長さがないといけない、という決まりはありません。音が1回でも、1秒で終わっても即興演奏は即興演奏だし、作品は作品です。長い即興演奏がしたいのに続かない、あるいは長い作品にしたいのに思いつかない場合、このような方法を試してみてください。
音の長さについても同様です。
手をこちら側にやりたい、指をこのような形にしたい、口でこのような動きをしたい…などの「運動の欲求」に意識を向けてみる方法もあります。これは筆者がよく使ってきた方法です。
この方法では意図していない音が出やすくなりますが、そこから逆にインスピレーションを得られるかもしれません。意図していなかった音が出たとしても、「ミス」や「失敗」と決めつけずに、表現の一部として大切にしてください。
曲の形式や構成を決めてみます。
6-2で作った音のグループをいくつか鳴らしてみて、グループを鳴らす順番を決めます(テーマに合う「グループの順番」を見つけます)。
曲の中に強い部分、弱い部分を作ってみます。
曲の速さを決めます。
詩(歌詞)からインスピレーションを得られるかもしれません。
ひとつのテーマ×ひとつの楽器につき、ルールと設定の組み合わせ(例えばタイミングを決めて、スピードを変えてみるなど)も試してみてください。
実際に演奏したものを音声として残したい場合は、録音(レコーディング)をします。
9-6で詳しく解説しますが、録音するときの音質設定は、完成したファイルをアップロードするサービスに合わせておきましょう。
多重録音(複数の録音を重ねたもの)が必要なければ、レコーダーを使うのがいちばん簡単です。
多重録音をしてひとつの作品として仕上げたり音声の加工・編集・調整をしたい場合はパソコンやスマホのDAW(音楽制作ソフト)を使うと便利です。
こちらの記事でご紹介しているKoala Samplerは、アプリの中で曲を組み立てることができます。
パソコン上のDAWでは、より本格的な作業をより効率的に行えます。
頭の中で鳴った音をいますぐ音にはできなかったり、他人に演奏してほしいときは、楽譜に記録することもできます。音楽が再現できればなんでも大丈夫ですので、五線譜である必要はありません。
楽譜のデザインの方法はこちらの記事で解説しています。
作品に通し番号がない状態で作品数が増えてくると、だんだん管理が大変になってきますので、タイトルとは別に通し番号(作品ID)を割り振っておくことをおすすめします。
制作中にタイトルがない状態でファイルを保存するときもひとまず作品IDだけ入力しておけばOKですし、あとからタイトルを変えたくなったときも作品IDは変わらないので何かと便利です。
筆者は作品(プロジェクト)ごとに「297A2」のような作品IDをつけています。最初の数字はプロジェクト番号、アルファベットは派生番号(枝番)、最後の数字はバージョンですが、公表するときはバージョンは表に出さずに「297A」のようなかたちにしています。
どこにアップロードするにしても、作品の説明文(概要欄)が必要になります。
インターネットの世界で日本語を理解できる人は2.6%(100人に2〜3人程度)しかいませんので、説明文やタイトルに英語や中国語などを入れておくだけで可能性が大きく広がります。
困ったらこのような内容でよいと思います。
ライセンスをどうするかは、作品が今後どのくらい拡散するかに関わってきます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
どこにアップロードする場合でも、プロフィール画像とプロフィール本文が必要になります。
短くても構いませんので、日本語+外国語(英語など)でプロフィールを作ってみましょう。
ドイツ・ベルリンに拠点を置き、世界でもっともよく利用されている音声共有プラットフォームの一つです。SoundCloudで公開した作品を販売したい場合、販売用のプラットフォーム(後で説明するBandcampやGumroadなど)を別に用意してから、そのページをSoundCloud上の作品とリンクさせる必要があります。
アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置き、世界でもっともよく利用されている音声共有プラットフォームの一つです。SoundCloudとは違い、曲を販売することができます。
アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置き、作品(実物やデータ)の販売に特化したプラットフォームです。レコードなどのアナログ媒体を販売することも、音声や動画データだけのデジタルコンテンツを販売することも可能です。Discoverというソーシャルメディアのような機能もあり、他の作品を購入したユーザがこちらへ流れてくるというようなこともあります。
東京に拠点を置き、映像・ゲーム・アプリ・イベントなどに使える音楽・音声素材を販売するプラットフォームです。
再生回数やコメントの数に応じて上がる「スコア」を貯めてポイントや現金に交換することのできる「クリエイター奨励プログラム」があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
公開先が決まったら、ファイルの形式と音質を考えます。
公開するプラットフォーム(音声配信サービスや動画投稿サイトなど)によって形式が限られていたり、受け付けられているファイルのクオリティの幅がありますので、公開先に合わせてファイル形式と音質を整えます。
形式や音質の設定には選択肢がいろいろありますが、迷ったらこのように設定してみてください。
どちらの場合もサンプリングレートとビット数は高いほど音質は上がりますが、そのぶんファイルサイズは大きくなり、上の数値を超えると人間の耳では聞き分けられない領域に入ります。
元の音声のクオリティ(録音するときのオーディオインターフェースのサンプリングレートなど)が低い状態のプロジェクトを高音質で書き出しても音質はよくなりませんので、最終的にアップロードするときのサンプリングレートやビット数に合わせるか、それよりも高いサンプリングレートやビット数で元の音声を準備しましょう。
ファイルが準備できたら、アップロードします。
これで、自分の作品を世界に公開できました!
ただ、作品を公開しただけで勝手にそれが広まっていくということはありませんので、それをたくさんの人に広めるためにはSNSの力を借りましょう。
Facebookを作ったMetaが運営し、2022年1月時点で14.7億人が利用するSNSです[1]。画像や動画など視覚的なものが中心ですので、演奏動画やミュージックビデオなどが用意できる場合はおすすめです。
2022年1月時点で4.3億人が利用する、短い文章を投稿するSNSです[1]。最近ではNFT作品を発信するクリエイターやNFTのコレクターが多く集まっていますので、作品をNFT化した場合はTwitterがおすすめです。
Metaが運営し、2022年1月時点で29.1億人が利用する世界最大のSNS[1]で、Instagramと比べると年齢層が高めです。Twitterのように見知らぬ人と繋がるためのSNSではないため、リアルで繋がった友人や知り合いにあなたの作品を知ってもらい、そこからさらに広まっていくことを期待する方向性になりそうです。
2022年1月時点で25.6億人が利用する世界最大の動画メディアです[1]。
2022年1月時点で10億人が利用する動画メディアです[1]。再生回数やフォロワー数が重視されているとされるYouTubeに対して、視聴者からの人気度が重視されるといわれる動画メディアです。再生回数やフォロワー数がない状態であっても、一定数のユーザーにレコメンド動画として拡散されるため、そこから「バズる」可能性が期待できそうです。
お疲れさまでした!これであなたも立派な作曲家です。
みなさんが自分の作品を発表すると、否定的なことを言われることもあるでしょう。
しかし、それはその方から見た音楽の世界の話を聞いているのであって、それが音楽のすべてではないし、それとあなたの音楽の世界が同じとは限りません。
それでも迷いが生じたら、「音は人の中で音楽になる」と考えてみてください。音楽は物理現象としてはただの振動(音)だが、音楽という概念を作ったのは人間で、しかもどこからどこまでが音楽か、何が音を音楽に変えるのかは人によって違う、という意味を含んだ言葉です。
「難しくてよくわからない」「もう少し具体的に教えてほしい」など筆者のサポートをご希望の方は、こちらからお気軽にご連絡ください。
[1] Most popular social networks worldwide as of January 2022, ranked by number of monthly active users
小山和音
こやま・かずね
音楽教育の新しいかたち作り(創造性と個性を最優先に、音楽を教えず、評価せず、楽器や楽譜を自分でデザインしてゼロから音楽をつくるオンラインの音楽教室)と、音の生まれるしくみ作り(周囲の条件に反応して音楽や音声をリアルタイムに生み出すシステム開発)。